2013年10月12日土曜日

赤竜 1 その29

 モルグにあったのは、本当に綺麗な頭蓋骨だった。まるで何処かの教室から持ち出した標本みたいだ。しかし検死官は本物の人骨だと断定していた。そしてレインボウブロウはそれを抱き上げて頬ずりした。
「御免ね、オルランド。」
と彼女は囁いた。
「留守にすべきではなかった。わかっていたのに・・・。」
 検死官がオーリーに小声で尋ねた。
「何故彼女はあれがオーランド・ソーントンだとわかるのかな。」
 答えられなかったので、オーリーはレインボウブロウに見習って質問で返した。
「先生は何故頭部と胴体が同一人物だと判定なさったんです。」
「首の骨の断面がぴったり一致するから。」
「ああ、そう・・・」
「彼女は頭蓋骨とダンスをしているのか?」
 レインボウブロウが骨を抱いたまま室内を歩いていた。リズミカルな歩調で宙を眺めながら、彼女は意味不明の歌を口ずさんでいた。
「首を切断した凶器が出たら、先生にはわかりますか。」
「骨の断面と刃物の傷が一致すれば、決定的だ。犯人の目星はついているのか。」
 残念ながら。オーリーは首を振った。彼女が近づいて来た。
「オルランドを連れて帰りたい。」
「ミズ・カッスラーの署名が必要です。」
 オーリーは彼女の視線を捉えた。サングラス越しでも、はっきり感じた。イヴェインが来るのを待てない、と彼女の目は訴えた。オーリーは規則を曲げられる程高い地位にいなかった。
「彼女に連絡する。ここで待っていよう。」
 イヴェインは携帯電話を持っていなかったので、クーパー弁護士の事務所にかけた。時刻が遅かったので、事務所は既に終了しており、留守電になっていた。オーリーは女性たちの家にかけてみた。まだ彼女は帰宅しておらず、誰も出なかった。
「きっとタクシーの中だ。もう暫く待っていよう。」
 早く次の仕事に取りかかりたい検死官を残し、二人は待合室に入った。レインボウブロウが珍しく落ち着かなかった。
鼻をひくひくさせて、
「死の匂いがいっぱい。」
と呟いた。
「モルグだからね。」
「血の匂いと、腐臭。」
「ここに運ばれる死体は全て綺麗なものとは限らない。」
 オーリーは滅入りそうな気分を入れ替えようと、頭を回転させた。
「以前、俺が君とソーントンが知り合ったきっかけを尋ねただろう。君はソーントンがタンスを買った話をした。それから、どう言う展開になるんだい。」
 レインボウブロウは廊下の壁の上にある窓を見上げた。
「タンスの抽斗をオルランドが開けた。」

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