2013年10月12日土曜日

赤竜 1 その28

「あ・・・」
 泥だらけの手を用心深く額に擦りつけて、彼女は汗を拭くふりをした。
「ベルが故障していたことを、忘れていた。直ぐ直さなければ。」
 彼女は穴をそのままにしてそばの流しで手を洗った。オーリーは先に上に上がった。彼女が追いついた時に警察から電話が掛かってきたのだ。レインボウブロウが電話に出るのを、オーリーは初めて見た。彼女は「カッスラー」と名乗り、相手の話に耳を傾け、何時そこへ行けば良いのか、と尋ねた。そして「有り難う」と言って電話を置いた。オーリーを振り返って、事務的に言った。
「墓地で頭蓋骨が見つかった。オルランドの墓石の上に置かれていたそうだ。身元確認の為にモルグへ行かねばならない。」
 素人が骨を見て親しい人間の物だと判別出来るはずがないのに、とオーリーは上司の判断を腹立たしく思った。電話に出たのがレインボウブロウだから、冷静なのだ。イヴェインなら、取り乱したかも知れない。
 結局、質問は後回しにされて、彼は自分の車にレインボウブロウを乗せた。かなり暖かい日だったのに、彼女はブルゾンを着ていた。
「モルグに着く前に教えて欲しい物があるんだ。」
 彼は魔法店でメモした物品リストをポケットから出して彼女に手渡した。
「これは何に使うものだろう。」
 レインボウブロウはサングラスをやや持ち上げてリストにさっと目を通した。
「これは?」
「コールマンと言う魔法道具を扱う店で2,3週間前に来た客が購入した品物だ。店の者が言うには、珍しく真面目な客だ。ひやかしじゃなくてね。何に使うのだろう。」
「魔術。」
「それはわかる。どんな内容の魔術だ。」
「これだけでは、何とも・・・」
 はぐらかされたくないオーリーは素早く言った。
「特定出来ないなら、考え得る限りのことを教えてくれないか。」
 彼女はサングラスを掛け直した。
「考え得るのは、唯一つ。材料が足りないだけで、他の術は考えられない。足りない物は既に持っているのかも知れない。」
「だから、何だ。」
 横目で睨むと、彼女は初めてオーリーに降参した。
「召還術。」
「何を呼ぶんだ。」
 少し間をおいて彼女は答えた。
「先祖の霊。」

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを有り難うございます。spam防止の為に、確認後公開させて頂きますので、暫くお待ち下さい。
Thank you for your comment. We can read your comment after my checking.