2013年10月14日月曜日

赤竜 1 その33

 オフィスの中はお香の様な香りと煙が漂っていた。オーリーは不快な気分になった。この匂いを嗅ぐと何か昔見た怖い夢を思い出しそうな気がしたのだ。
「儀式でもなさっていたのですか。」
 彼の質問にクーパーがドアを閉めながら「そうです」と答えた。彼はオーリーに椅子を勧め、自分の席に向かった。
「良い知らせ、とは何ですか。」
 部屋全体が陽炎に包まれた様に、オーリーには見えた。世界が揺れている。まるで酒に酔った時みたいだ。
「あんた、麻薬でも焚いているのか。」
 背中の拳銃に手が伸びた。クーパーは机の向こうから冷たい目で彼を見ていた。
「少し首を突っ込みすぎた様だな、刑事さん。被害者に親切にする必要なんてなかったのに。女どもが気に入ったのかい。」
 オーリーは彼がニヤニヤと笑うのを見た。その直後、クーパーの背後の窓の向こうを何か大きなモノが横切ったかに見えた。
 幻覚なのか。オーリーは真っ直ぐ立っていられなくなった。床にがくりと膝を衝いた彼は、本能が叫ぶのを心の奥で聞いた。煙を吸ってはいけない。彼は拳銃を抜き、窓に向かって発砲した。高価な二重ガラスはヒビが入っただけだった。クーパーが声をたてて笑った。
「無駄だよ、防弾ガラスだ。銃声すら聞こえないよ。」
 その時、窓が大きな音をたてて崩れた。ガラスの破片が室内に飛び散り、クーパーもオーリーも腕で顔を庇い、身を丸めた。ドッと風が吹き込んできた。入れ 替わりに煙が外に吸い出された。オーリーは深く息を吸った。朦朧としかけた頭がはっきりしてきた。彼は立ち上がり、クーパーに銃を向けた。クーパーは突然 崩壊した窓を呆然と見つめていた。


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