2013年10月27日日曜日

赤竜 2 その1

 ハルは懐中電灯の光を貯水槽の水面に這わせた。乳白色に濁った水が小さく波打って揺れていた。さっき、確かに水音がした。魚が跳ねた様な音だ。そんなは ずはない、ここの水は3重の濾過装置を通してゴミを取り除いている。今夜は濁っているが、それは夕方の激しい雷雨のせいで、いつもはもっと透明に近い。魚 なんて、入り込む余地などないのだ。
 気のせいだ、とハルは自分に言い聞かせた。昨日テレビで見た「アビス」って映画の影響に違いない。或いは、子供時代に見て、海が嫌いになった「ジョーズ」のせいか?
彼が貯水槽に背を向けた時、またパシャッと水音がした。ハルは振り返った。間違いない、何か生き物が入り込んでいる。それが何であれ、ポンプに吸い込まれ て工場への送水がストップしたら、ハルの責任だ。まだクビになりたくなかった。彼はもう一度、水面を電灯の明かりで照らした。何かが光った。銀色の鱗だ、 と彼は思った。網ですくえるだろうか。彼は事務所へ行こうと、水に背を向けた。水面が動いた。彼は殺気を感じて、振り返ろうとした。何かが水から飛び出 し、彼に飛びかかって来た時、彼は腰の拳銃を掴もうとしていた。

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