2013年10月13日日曜日

赤竜 1 その30

「成る程、そこに何か宝物でも入っていたのか。」
「宝物・・・」
 彼女がフッと自嘲するみたいな笑い方をした。
「人に拠っては、そう考える者もいるだろう。」
「君はそうは思わなかったんだな。ソーントンも同じ考えだったのか。」
 彼女が窓からオーリーに視線を移した。
「彼は、何だろう、と思っただけだ。」
 相変わらず要点を絞りきれない説明だ。オーリーは慣れてきてはいたが、好きにはなれなかった。少し苛々して尋ねた。
「何だったんだ。」
 レインボウブロウは時計を見た。
「そろそろイヴェインが家に着いた頃だ。寄り道するなら、状況は違うけれど。」
 仕方なく、オーリーは再び電話をかけてみた。呼び出し音だけが空しく聞こえてきた。
彼がレインボウブロウを見て首を振って見せると、彼女は立ち上がった。
「何処に行った。」
 苛立っていた。オーリーが
「明日じゃ駄目か。」
と聞いても、「駄目」と言うだけだ。
「オルランドの頭は侮辱を受けている。魂を浄化してあげなければ、彼は安らかに眠れない。」
 そして、突然誰もいない廊下の一隅に向かって怒鳴った。
「来るな、それ以上近づくと焼き払う。」
 オーリーは彼女がどうかしてしまったのでは、と心配になってきた。ソーントンの頭蓋骨を見て、彼女の精神が緩んでしまったのでは。
「クーパーの携帯電話の番号はわからないのか。」
 オーリーの提案に、彼女が足を止めた。
「ワールウィンド刑事、さっきのリストの品を買った人間の特徴を聞かなかったのか。」
「少しだけ。」
 オーリーは手帳を出した。
「大柄で濃い口ひげの、スーツをきちんと着こんだ男、硬い職業に就いている雰囲気。
魔法で遊ぶ様なタイプに見えない・・・」
 彼はレインボウブロウを見た。
「クーパーか?」
 彼女が窓を見上げ、やがて出口に向かって歩き始めた。オーリーは追いかけた。
「弁護士の事務所に行くのか。」
「イヴェインが心配だ。」
「君一人では危険だ。つまり、もしクーパーが犯人だったら・・・」
 レインボウブロウは聞く耳を持たぬと言った様子で、検死局から出た。オーリーは検死官に叱られることを覚悟で、彼女に付いて行くことにした。

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