2013年10月13日日曜日

赤竜 1 その31

 ビッテンマイヤー法律相談所は就業時間をとっくに過ぎていたが、照明が灯った部屋がいくつかあった。クーパー弁護士の部屋もその一つだった。抑えた明かりを見て、レインボウブロウが「嘘つき」と呟いた。
「留守電にして、帰ったと思わせたんだ。」
とオーリー。イヴェインはまだ無事だろうか。クーパーが何故イヴェイン・カッスラーを誘い出したのか、彼は道中の車でレインボウブロウから理由を聞いた。
「どの霊を呼び出すかに拠るが・・・」
と彼女は説明した。
「儀式は処女の生き血が用いられることがある。イヴェインは酷い環境で育ったし、娼婦の真似事もやったが、若いから処女の代用にされる可能性はある。彼女がいなくなっても訴える親族はいない。弁護士なら、彼女の財産を自由にする法律の抜け道を考えられるだろう。」
 クーパー弁護士が呪い好きとは到底思えなかったが、財産の横領は十分考えられた。
オーリーはバッジを持っていた。非番でも持ち歩く習慣だった。兎に角、それで弁護士に面会を求めてみよう。
 オーリーはレインボウブロウに外で待つように、と言った。
「私が一緒の方が中に入れてもらえる確率が大きい。」
と彼女が待つことに異論を唱えた。
「向こうは処女の生き血が欲しい。イヴェインが不合格の場合、私が行けば彼らは喜ぶ。」
「なおさら、ここで待っていて欲しいね。」
 オーリーはダッシュボードから拳銃を出して、ベルトの背中に挿した。
「俺はイヴェインを助けるので精一杯になるだろう。君の護衛まで手が回らない。」
 すると、彼女はそれ以上我が儘を通そうとはしなかった。彼に「気を付けて」と言っただけだった。
 オーリーは建物に入った。昼間来た時と違って閑散として、暗かった。受付カウンターの向こうにいるのは、事務員ではなく、屈強な警備員だ。オーリーは微笑みを浮かべながら近づいた。
「やあ、今晩は。僕は市警のワールウィンドだ。」
 バッジを見せると警備員は警戒を解いた。
「今晩は、刑事さん、何か用ですか。」
「この前を通りかかったら、クーパー弁護士の部屋に明かりが見えたんで、今日ソーントン事件で少し良い知らせがある、と伝えに来たんだ。呼び出してもらえるかな。」
「じゃ、ちょっと待って下さい。」
 警備員が内線をかけた。確実にクーパー弁護士は部屋にいるのだ。二三の言葉のやりとりの後で、警備員がオーリーを振り返った。
「すぐ来られるそうです。」
「有り難う。」

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