2011年10月14日金曜日

考古学者???

「先生、昨日亡くなったドンブリ島文化研究の権威バカヤマ先生の遺品なんですが・・・」

「ん? どうしたんだね?」

「ドンブリ島人の若者が自分の物だから返して欲しいと言うのです。」

「バカヤマ先生のコレクションは全て遺跡から収集した物だろ。 個人の持ち物はないよ。」

「それが、彼が言うのは、あれは遺跡ではなくて、今でも使っている現役の墓所だそうです。」

「なんだって? あんなに荒廃していてジャングルに呑み込まれかかっていると言うのに?」

「ジャングルなので、草刈りをしても一月でああなっちゃうんだそうです。 それに、ほんの二月前に葬った彼のお祖父さんの骨も無くなっているそうです。」

「そうか・・・その若者にバカヤマ先生の遺品を見てもらって、該当する物を返還する手続きをしてあげなさい。 もし貸してもらえる物があれば、研究用にお借りするように。」

「わかりました」

「あ、それから・・・そこのロッカーに入れてある骨格サンプルも返してあげてくれ。多分、彼のお祖父さんだ。」

2011年10月8日土曜日

ノック

ノック

ドンドンっと乱暴にドアを叩く音がした。
 こんな夜更けに誰だ。 室内の仲間と顔を見合わせた。

「どなたです?」

 声をかけると、外にいる者が返答した。

「寒いんです。寒いんです。入れてください。」

 外は木枯らしが吹いていた。山奥の小屋だ。強盗未遂で逃亡している人間が隠れているところに助けを求めて来たヤツがいる。
 仲間が目配せした。
 入れてやれ。うまくやり過ごせば、きっと通報することもないだろう。

 ドアを開いた。ザッと風が吹きこんだが、外には誰もいなかった。

「なんだ?」

とつぶやいたら、すぐ後ろで・・・ほんとに耳元で・・・声が囁いた。

「寒いんです。寒いんです。戸を閉めてもらえますか。」

2011年10月5日水曜日

古い旅館の怪

お化けが出ると評判の古い旅館に泊まってきました。
心霊写真の撮影が趣味の友人や霊感が鋭いと自慢の友人と一緒でした。
霊の存在を信じないと言う元レスリング部の職場の先輩も興味本位で参加しました。

旅館は現在も営業しているので、名前や所在地は伏せます。

昼間も薄暗い入り口を、引き戸を開けて入ると、すぐ左手に寿司屋の様なカウンターがあり、実際にそこで旅館の主人が寿司を握っています。
古い旅館は流石に宿泊客が少ないので、普段は寿司屋として営業しているのです。ですから、そのカウンターが、旅館のフロントも兼ねていました。

「いらっしゃい!」

お化けが出る旅館にふさわしくない威勢の良い声で迎えられ、予約していることを告げると、すぐに若い仲居さんに部屋まで案内されました。

畳敷きの古い日本間でした。
天井には染みがあり、お化けの顔でも浮かんでいそうでした。
照明は裸電球、暗くて読書には向きません。
暖房はコタツと、カートリッジ式の石油ストーブだけでした。
ストーブはまだ火を入れる時期ではなかったので空っぽで、コタツだけが電気で使えました。
ガラス戸の外の庭は趣のある坪庭で手入れが行き届き、お化けが出そうにありません。
今時珍しい真空管のテレビを見て暇をつぶし、懐石料理の夕食を取ると、お風呂へ。
お化けはお風呂に出るのか、とちょっと緊張しましたが、五右衛門風呂の珍しさですぐ忘れてしまい、貴重な体験を楽しみました。

霊感のある友人も、心霊写真趣味の友人も、何も感じないと言い、レスリング部出身の先輩は、「だからいないって言ったじゃん」と笑いました。
夜遅くまで語り合いましたが、結局お化けは出ず、テレビを消して寝ました。

翌朝、美味しい和風の朝食をいただいてから、チェックアウトしました。
寿司カウンターのレジで支払いをしていると、女将さんが、
「夕べは何もない部屋で退屈だったでしょう。」
と言うので、
「いいえ、お喋りですぐ時間がたってしまいましたよ。それにテレビも見たから。」
と言いました。
すると、女将さんが怪訝そうな顔で言いました。

「あのテレビ、映らないでしょう? 地デジ対応じゃないんだから・・・」

2011年10月1日土曜日

海岸通りの家

念願の海のそばの家を手に入れた。寝室が二つだけ、リビングとダイニングとキッチンとバスルーム、それにユーティリティーだけの小さな家だったけれど、一人暮らしなんだから、十分広かった。住所は海岸通り4丁目13番地。ちょっとかっこいいじゃない?
それに、なんてったって、すごく安かったんだもの。
引っ越しの時、運送屋さんは、荷物を置くと、逃げるように帰って行った。コーヒーでも入れようと思ったのに。
近所の人は何かこそこそ井戸端会議。挨拶すると笑顔で返事してくれたけど、ちょっとよそよそしい。何だろ?

夕陽が素晴らしい。寝室の一つを書斎にして、仕事の合間に海を眺めて休憩する。太陽が水平線に沈んでいくのを見ながらコーヒーを飲むなんて、最高の贅沢だ。
「こんな風景を私たちだけで楽しむなんて、もったいない気がしない?」
と呟いて振り返ると、彼女がそこにいて、にっこり笑って応えた。
彼女はこの部屋の住人だ。晴れた日の夕方だけ現れる。首から上だけのロングヘアの若い女性。きっと夕陽が好きで好きでここに居着いたのだろう。

キッチンで料理をしていると、子供たちが走り回っている。「子供たち」と言っても、見えないから、そう呼ぶだけ。2人だか3人だか、パタパタと足音がする。カップにミルクを入れてテーブルに置くと静かになる。喉を潤すと、次の日まで静かにしている。

庭には麦わら帽子を被った男の人がいる。フェンスのペンキを塗り直していると、そばに立ってじっと見ていた。
「この色、気に入ってくれるといいのですが」
と言ったら、うんうんと頷いて消えた。外装に手を加えると、いつも見にやってくる。だから、センスの良い色を選ぼうと努力している。

リビングには読書が好きな女の人がいて、ソファに座って本を読んでいる。本のページはちっとも進まないが、私がテレビを見ていると、一緒に見て、笑っている。

海岸通りの家は、素晴らしい。一人暮らしだが、ちっとも退屈しない。

からくり人形

 暗い玄関に入って、「ごめんください」と言う。

 カタカタ・・・と音がして、廊下の奥からからくり人形が茶碗を載せたお盆を運んでくる。

 目の前でピタっと停まったので、茶碗を受け取って、一口飲んで、返す。

 からくり人形は回れ右して、カタカタ・・・と音をたてて去って行きかける。

「すごいよね、あんな物を昔の人が発明したなんて」

と呟くと、人形が振り返って、ニタッと笑った。