2013年1月1日火曜日

不在証明

捕虫網を持った人間が草むらをかき分けて歩いて行く。
ボクは葉っぱの裏に留まってじっとしている。
彼らが誰を捜しているのか知らない。
食べる為に捕まえるのだろう。だって、生物が生物を捕まえるのは、それが目的なんだから。
だから、ボクはじっとしている。
人間の目標が誰だろうと、見つかる訳にはいかない。


100年以上前の外国人の標本に、一匹のカミキリムシがある。このカミキリムシは県北部に分布していて、南部では確認されていない。この昆虫は羽根が退化して飛べない。だから、外国人が捕獲したと言う南部の山に住んでいるはずがないのだ。
こうして何年も昆虫学者が探し回っているが、誰も捕獲どころか見かけたこともない。
だから・・・

「いないのだ!」

と公式発表することが、なんと難しいことか!
「いる」と発表する方がどんなに簡単か!捕まえて公開すれば良いのだから。
だけど、「いない」証明は出来ない。探し回って、「見つかりませんでした」だけでは、世界の昆虫ファン、昆虫学者は納得しない。
あの外国人が標本を作り間違えたと言う証明が出来なければ、学者たちは永遠に探し続ける。

さっさと行っちまえよ。
草食べに行きたいんだからさ。
飛べないんだから、ボクは歩かなきゃいけない。美味しい草のあるところまで、今日も移動するんだぜ。

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