2012年12月31日月曜日

すみれの花咲く頃

タカコはクラスで一番大柄な女の子で、気持ちも優しかった。中三ともなるとみんな気難しくなってきて、苛めや仲間はずれで受験の憂さを晴らしたりしていた ものだが、タカコは体同様に大きな心でどんな友達も受け入れた。仲間はずれにされたクラスメイトを自分の机に招いて一緒にお弁当を食べたし、誰かが喧嘩し て教室内が沈んでいたりすると明るい声で冗談を言ってみんなの気分を紛らわせた。みんなタカコには一目置いていて、他の友達に意地悪する連中も彼女には普 通につきあった。
 明るくて、穏やかで優しいタカコ。でも、みんな彼女の胸の内に秘めた野望に気づかなかった。

 ある日の下校途中でタカコは私に告白した。
「私、宝塚、受験したの」
 ちょっと意外だった。あの華やかなステージと地味な制服の中学生が結びつかなかったから。
「タカコちゃんは無理よ」
と母は私の話を聞いて言った。
「歌が上手でダンスを踊れても、タカコちゃんの顔は舞台向きじゃないわ。」
「どうして? タカコ、可愛いじゃない。」
「可愛いけど、こじんまりしてるじゃない。ヅカのスターを見てご覧なさい。みんな目も口も大きいじゃない。」
 確かに、タカコも顔は大きな体と対照的に慎ましやかな造作だった。可愛い目もぽっちゃりした唇も、お上品に小さかった。

 顔の作りの所為なのか、タカコは宝塚の受験に失敗し、普通の私学の女子高校に進学した。私とは学校は違ったが、家が近いので度々下校時のバスで一緒になり、その度に世間話をした。タカコはすっかり宝塚を忘れたように高校生活を楽しんでいた。だけど、そうではなかった。
 高三の時、彼女はまた言った。
「私、宝塚、もう一度挑戦するの。」
 すっかり奇麗な娘さんになっていたけど、やっぱり顔の作りはこじんまりしていた。そして、音楽学校は、彼女の二度目の挑戦も撥ね除けた。

 タカコは名門の女子短大に進み、そこで青春を楽しんだ。
 4年生大学に進学した私より先に社会に出た彼女は、もうヅカを受けたりしなかった。その代わり、市内では中堅クラスに入る旅行社に就職した。
「わたくし、こう言う者です。よろしく~♪」
 タカコは私に名刺をくれた。「ツアーメイト」と言う肩書きが名前の右肩に印刷されていた。
「なんの仕事?」
「添乗員よ。お客さんと一緒に旅行するの。しんどいこともあるけど、面白いのよ。いろんな所に行けるし、お客さんの前で歌ったり喋ったりするの、とっても楽しい♪」
スーツ姿のタカコは輝いて見えた。

「宝塚も馬鹿だね。」
と母が言った。
「タカコちゃんみたいな光ってる子に気づかないなんてね。」


*************************
高井美佳さんの思い出に

2 件のコメント:

  1.  タイトル見て、どこの宝塚だよ?…と思ったら本当に宝塚だった。

     私の中学のクラスメートにも居ました、宝塚受験のコ。結果は知りませんでしたが、何年か後、偶然電車に乗り合わせて、何処に行くの? 学校。どこ? 〇〇〇美術短期大学。宝塚の壁はあついなぁ…と感じました。

    返信削除
  2. すごく厚いのよね。そんで高いのさ。

    返信削除

コメントを有り難うございます。spam防止の為に、確認後公開させて頂きますので、暫くお待ち下さい。
Thank you for your comment. We can read your comment after my checking.