2012年12月30日日曜日

女形

 その日の演目は「蘆屋道満大内鑑」だった。女形が美しく、その妖艶な目配りの様や仕草に、男性だとわかっていても観客はみな惚れ惚れと見入っていた。理想の女性を男性が演じるのだから、本物の女性以上に魅力的なのは当たり前なのかも知れない。
 物語のクライマックス、正体を知られた葛の葉が別れの歌を障子に書こうとするのに幼い童子丸(後の安部晴明)がすがりついてくる。母親は我が子 を片手であやし、片手で字を書く。初めは右手で、やがて左手に筆を持ち替え、最後は息子を両手で抱きかかえ、口にくわえた筆を走らせる。

 観客は涙する。そして早変わりで白狐となった葛の葉が舞台袖に消えていくと、割れんばかりの拍手。
 芝居が終わって観客たちが席を立った。

「いつ見てもいい芝居だなぁ」
「女形が素晴らしいね。」
「上手だね。特に、最後の早変わり。」
「うん、あれは見事だ。あんなに速く狐に姿を変えられるなんて。」
「我々も、もっと修行しなければな。」

 口々に喋りながら、森へ消えていく狸たちだった。

恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉


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見たよね? 同級生たち、見たでしょ? 覚えてる?

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