2013年11月12日火曜日

赤竜 2 その12

「彼が今度の日曜日に田舎へドライヴに行こう、て言うの。一緒に来てくれるかしら、レニー。」
 オーリーはびっくりした。イヴェインがもてるのはわかる。でも、どうして簡単にデートの誘いに応じるのだ。オーリーとのデートと同じ次元なのか?
 レインボウブロウがビールの瓶を片手に体を少しリズミカルに揺らしながら、イヴェインに言った。(彼女はこの日5本目のビールだった。)
「何故一人で行かない?」
「だって・・・」
 大柄な娘が目を伏せた。
「怖いの、私、男の人と二人切りになるのが怖い。」
 オーリーはハッとした。イヴェインは貧民街の出だ。彼女はかつて生活の為に体を売ろうとしたことがあった。実際に売ったのか、未だなのか、それは彼にはわからない。彼女は縄張り争いに巻き込まれ、喧嘩相手の娼婦たちの用心棒から暴行を受けて”死んだ”。
レインボウブロウに助けられた彼女は、「死」の記憶がない。しかし、男たちから酷い目に遭わされた記憶は心の何処かに残っているのだ。だから、彼女は男性に対して完全に心を許せないでいる。オーリーの様に親しくなった人間に対しても、やはり警戒してしまうのだ。
「嫌なら、行かなくてもいいじゃないか。」
とオーリーが言って、イヴェインの視線を浴びた。彼は思いきって彼女に言った。
「二人切りになれないのは、彼に対して信頼が持てないからだろう。それなら、焦らずにデートを断ればいい。その方が俺も安心出来る。」
「でも、次の日から仕事がやりにくくなるんじゃないかしら。」
「一回断られただけで、気まずくなるような相手は、なおさら駄目だ。」
 イヴェインは仕事がスムーズに出来るようにデートの誘いを受けたのだ。オーリーは少しだけ安心した。
「臆病になるなよ、イヴ。君は十分魅力的だ。職場の人間だけを相手にする必要なんかないんだよ。それに、現在の職場に何時までもいる訳じゃないだろう。もっと条件がいい所を見つけて転職すればいいんだ。」
 イヴェインは困って、いつもの行動を取った。即ち、レインボウブロウの顔色を窺ったのだ。
「ねえ、レニー・・・」
 レインボウブロウは6本目の栓を開けながら答えた。
「私は行かない。」
 イヴェインが唇を突き出した。
「二人とも、意地悪ね。私は遊びに行きたいだけなのに。」
 レインボウブロウが彼女を眺めた。酔いが回っているのか、瞳孔が開いて、黒目になっていた。
「誰とでも遊んでいいと言うものじゃない。」
と彼女がぴしゃりと言って、イヴェインとオーリーを驚かせた。
「あなたは、財産を持っているし、若くて美しい。だからこそ、友達は慎重に選ぶべきだ。誰があなたを一番大事に思っているのか、よく考えるといい。」
 オーリーは若いイヴェインがショックを受けたことを感じた。彼女は勢いよく立ち上がった。
「私は財産を下さいと言った覚えはないわ。愛されるって、どう言うことなのか、わからないの。優しくしてくれる人とドライヴして何が悪いの。」
 食堂から彼女は走り出して行った。オーリーは彼女の寝室のドアがパタンと閉まる音を聞いた。彼はレインボウブロウを見た。鱗がある娘はその日初めて食べ物らしい物を、アンチョビの欠片を口に入れたところだった。
「怒らせたぞ。」
「気になるなら、慰めに行けば。」
 彼女は冷めて固くなりかけたチーズを嘗めた。
「どうして、ウミヘビは工場の警備員を殺めたのだろう。」
と彼女は呟いて、オーリーに彼が警官であることを思い出させた。

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