2013年9月5日木曜日

赤竜 1 その10

 インターネットで検索すると、「赤竜」は魔法使いの教科書だった。魔女になる為の儀式の方法や心 得、簡単な魔法等がしるされているらしい。わざわざ殺人を犯してまでして盗まなくても、魔法グッズの店に行けば置いてありそうな本だ。つまり、オーラン ド・ソーントンが持っていた「赤竜」はただの「赤竜」ではないってことだ。
 窓から午後の日差しが差し込んでいた。オーリーの侘びしい一人住まいのアパートが、この夕焼けが始まる少し手前の時間だけ綺麗な場所に見える。
 オーリーは5時間ばかり眠ったのだ。居間のソファの上だったので、寝心地が良いとは言えなかったが。彼のベッドにはレインボウブロゥがいるはずだ。彼女 は一度イヴェイン・カッスラーが宿泊しているモーテルに行った。女中の着替えを届けてやったのだ。それから彼のアパートまでついてきた。連れて来なけれ ば、また屋敷に戻ってしまうからだ。女性を部屋に入れたのは始めてだった。デートの経験はある。しかし、こんな部屋に来てくれる程の付き合いはしていな い。
 オーリーが背伸びをした時、寝室のドアが開いてレインボウブロウが出てきた。寝起きの顔ではない。疲れている様にも見えなかった。彼女は昨夜と同じ服装だ。彼は振り返り、声をかけた。
「コーヒーでも飲むかい。」
「水を戴く。」
 彼女は自分で小さな台所に入った。
「あなたは、コーヒーを飲むか。」
「ああ、出来ればお願いしたい。砂糖抜き、ミルク入り。」
 彼女が薬缶に水を入れ、コンロにかけた。水のコップだけ持って居間に戻り、彼の横に立った。パソコンの画面を覗き込み、彼の検索結果を読んだ。
「一般の”赤竜”はこの通りだろう。」
と彼女が認めた。オーリーはエクスプローラーを終了させ、画面を消した。
「ソーントンの本は他とどう違うんだ。」
「古い。」
 簡単な答え。
「100年前の物か、それとも、先祖伝来の物か。」
 彼女はオーリーが寝ていたソファに座った。
「先祖伝来ではない。厳密な意味では。あれは本の所有者が選んだ継承者に代々受け継がれた本だ。継承者が子孫でなければならないと言う決まりはない。」
「すると、君がその継承者かい。」
「否。」
 彼女は黄色い目で彼を見つめた。
「彼が選んだのはイヴェイン・カッスラーだ。」
「すると・・・」
 オーリーは情報を整理しようと試みた。
「イヴェインはソーントンの養女なのか。」

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