2013年3月6日水曜日

カバ田さんの訃報

 その日、全国の新聞の第一面を見た人々は、「え?」と思った。
第一面一杯に一人の女性の笑顔の写真が掲載され、上に大きく横抜きで「カバ田さん逝去」と書かれていた。
ごま塩頭の髪はパーマをかけられて、綺麗に波打っていた。額にも目尻にも皺が刻まれ、団子鼻をふくらませ、口を大きく広げて楽しげに笑っている写真。口の中には、あれは、金歯か?
 首に巻いているのはスカーフと言うより手ぬぐいみたいだ。くたびれた襟首のセーターは、それでも清潔そう。
 なんだか懐かしい印象を与える、市井のおばちゃんの笑顔だった。
 だけど・・・だけど・・・

 新聞各社には電話が殺到した。

「カバ田さんって、誰?」

 新聞社にも答えられなかった。掲載した編集者たちも記者たちも答えられなかった。何故だか知らないけれど、どこからか写真が送られて来て、誰も何もわからないまま、「載せなければ」と言う使命感を覚えてしまった、と言うのが真相だった。

 この現象をその日、各テレビ局が取り上げ、論議した。
カバ田さんとは何者なのか。
誰が新聞社に彼女の写真を送ったのか。
一体何の目的でそんなことをしたのか。
これは、新手のテロなのか。
ただの愉快犯か。

 みんなが見落としていた。
 その同じ日の新聞の社会欄、片隅に小さく載っていた記事。

 <国民から、「庶民」意識が消える。>
 ○○誌が全国の読者対象に独自のアンケート調査を行ったところによると・・・。

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