2013年3月23日土曜日

長鎌

彼は土手に座っていた。黒いマントの様な丈の長い服を着て、フードで頭を隠していた。手だけが妙に白く、骨張っている。
「やぁ」と声をかけると、「やぁ」と返事をした。
「もう俺の番かい?」と不安を隠して」尋ねると、首を振った。
「いや、まだずっと先だ。」
「そうか」
ホッとした。横に並んで座った。
「本当は、○○家の親爺の番なんだがね」
と彼が言ったので、どきりとした。○○家は、朝から一家で海へ遊びに出かけていた。
「それは、ちょっと・・・」
「一家でレジャーの日に、って言いたいのかい?」
と彼はぶっきらぼうに言った。
「それは、こっちの台詞だよ。順番が当たる日に出かけるなんて。」
鎌の刃がキラキラ光った。
「これは、順番なんだ。おまえさんたちが生まれる前から、親の親の代から既に決まっていたんだ。変更は効かない。変えるとなったら、かなり面倒なことになる。だから、従ってもらいたいんだ。」
「だけど・・・」
風が吹いてきて、丈が伸びた草がざわざわと波打った。
彼は空を見上げた。
「お天道様が上がってしまう前にやってしまいたかったんだがな。」
「どうしても、やるのかい?」
「ああ、やってしまわないと、後が大変だ。」
彼はすくっと立ち上がって、鎌を振り上げた。
こちらも慌てて立ち上がり、鎌に当たらないように退いた。
「もう、行けよ。」
と彼は言った。それで、歩き始めると、
「○○には、ちゃんと報いてもらいからな。」
と彼は陰気な声で呟いた。
「順番があるんだよ、何事にも。」
「ああ・・・」
相づちを打つと、彼はフードを邪魔そうに取り払った。そして、黒い雨合羽を脱いで置いた。
彼はもう一度言った。
「これは、義務なんだ、土手の草刈りは・・・」

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