2013年3月3日日曜日

賞味期限

「最近、食品の賞味期限を誤魔化してラベルを貼り替える事件が多いね。」

杉山教授はにやにや笑いながら、学生たちを教壇から見回した。見下ろしたいのかも知れないが、階段教室なので、学生たちの位置の方が高い。

「賞味期限が消費期限と同じではないが、これは誠意の問題だからね。消費者に嘘をついてはいけない。
 これと似た話だが、30年余り前、私は見合いをした。写真の女性はふくよかで美しい人だった。
私は、会ってみたいと思った。男だったら、美人に会いたいと思うだろ?
あ~、同性に興味がない男だったら、と言うべきかな?
兎に角、私は写真の彼女に一目惚れした訳だ。
仲人をたてて、料理屋で見合いをした。現れた女性を見て、私はびっくりした。
かなり歳をくっていたからだ。
だが、写真の人には間違いなかった。
私は思わず、自己紹介よりも先に質問してしまったよ。
お見合い写真を撮られたのは、何年前ですか? とな。」

杉山教授はフッと笑った。

「見合いをした時、彼女は25歳だった。写真は成人式の時に撮ったのだそうだ。お肌の曲がり角を曲がってしまっていたんだな。
しかし、私もそのことで彼女を責めることは出来なかった。
私は、鬘を被っていたんだ。」

教授は、ピカピカの頭頂部を手で撫でた。

「私の髪は20代半ばから、消費期限が切れてね・・・。
ところで、彼女と私は、今も一緒に暮らしている。
男と女の消費期限も切れたが、人生の伴侶と言う賞味期限はまだ有効なんでね。」

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを有り難うございます。spam防止の為に、確認後公開させて頂きますので、暫くお待ち下さい。
Thank you for your comment. We can read your comment after my checking.