2012年11月11日日曜日

サンドールの野を愛す スーズィ

スーザンは世話好きな女の子で、友達の面倒を見るだけでは飽き足らなくて、カーティス先生の診療所に頻繁に出入りしていた。母親はちょっと心配して、診療の邪魔をしてはいけないから、と注意してみたが、先生が優しいので、結局大目に見ることにした。
 カーティス先生はとても年寄りで、外科も内科も小児科も産科も全部一人でやっていた。サンドールの唯一人の医者だったから、尊敬され、頼りにされていた けれど、本当に歳を取って、引退しても可笑しくなかった。だから、スーザンは先生のお手伝いをして器具を消毒したり、薬のラベルを読んであげていた。
 スーザンは町外れに住むトワニお兄さんも好きだった。優しくて格好良くて、でも残念なことに、お兄さんは誰とも結婚しないのだと町中の人が言っていたの で、眺めるだけにした。トワニお兄さんはいつも元気なので、診療所とは無縁で、スーザンはお兄さんに包帯を巻いてあげることも叶わなかった。

 ある寒い日の午後、学校が終わって、いつも通り診療所に行くと、表のドアが閉まっていた。それで勝手口に廻って台所を覗いたら、カーティス先生が椅子に座ってぼんやりしていた。
「先生、今日は休診なの?」
 スーザンが尋ねると、先生は目をしばたかせて彼女を認め、弱々しい声で言った。
「すまないが、スーズィ、トワニを呼んできておくれ。」
 先生は理由を言わなかったけれど、とても急ぐ用事のように思えたので、スーザンは走って行った。カーティス先生が呼んでいる、と告げると、トワニは「そうか」と呟いた。そして、スーザンには、「もう家にお帰り」と優しく言った。
 トワニは診療所に行き、そこに一晩泊まった。

 翌朝、集会所の鐘が打ち鳴らされ、サンドールの住人は唯一人の医師が亡くなったことを知った。カーティス先生はもう限界だったのだ。

 それから20年近く、サンドールには定住の医師がおらず、隣町の病院から巡回診療所が定期的に来るのを頼みとした。
 カーティス医学生援助基金による最初の奨学生が修行期間を終えてサンドールに診療所を開業したのは、今からほんの15年前のことだ。
 今、町の住人たちは、優しいスーズィ先生を頼りにしている。

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