2012年11月11日日曜日

サンドールの野を愛す テディ

「トワニ、ちょっと相談があるんだけど・・・」
 シオドア・オブライエンがバーにいるトワニに声をかけてきた。トワニは友達たちといい感じで飲んでいたので、面倒は嫌だと思った。万相談屋ではないのだ、俺は! だけど、顔を上げると、シオドアは思い詰めた目で見つめていた。
「話を聞くだけだよ」
 彼は友達に断りを入れて、席を発った。
 店の外は晩秋の冷たい空気で静まりかえっていた。トワニは若い友人を見た。
「女の話?」
 シオドアはびっくりした。
「どうして、わかるの?」
「君の親父さんが、君に好きな娘ができたようだ、と言ってたからさ。」
 シオドアは溜息をついた。
「その、親父が問題なんだ。」
 彼は、彼女ができた経緯を説明始めた。マギーと言う彼女とは、インターネットで知り合ったのだと言う。好きなフットボールチームのファンサイトでの、掲 示板友達だった。書き込みで意気投合して、オフ会で実物と出会ったら、想像以上に可愛い女性で、リアルでも意気投合してしまった。既に何度かデートしてい る。彼女と結婚したいと思い始め、彼女を両親に紹介しなければならなくなった。
「親父さんに遠慮する必要はないだろう」
とトワニが言うと、シオドアは哀しそうに言った。
「うちの親父は、黒人が嫌いなんだ」
「マギーは黒人なのか?」
「半分ジャマイカンで、半分白人なんだよ。とっても美人なんだけど、肌は黒いんだ。」
 トワニは溜息をついた。どうして、人間って、肌の色にこだわるんだ?
「君の親父さんは、本当に黒人が嫌いなのか?」
「はっきり言わないけど、黒人と席を隣り合ったりするのを嫌がるし、黒人がいる店には入らない。僕にはわかる、親父は人種差別主義者だ!」
「君は、それが嫌かい?」
「嫌だよ。僕はネットで世界中の人と話をする。みんな同じ人間だ。少なくとも、肌の色だけで人間を判断するのは、おかしいよ!」
「それじゃ、テディ、彼女を連れてきたら、俺も面会の場に同席しよう。」

 シオドアの父親のシオドア・オブライエンは、テディJrの彼女と面会した時、暫く無言だった。ファッション雑誌の表紙から出てきたみたいな素晴らしい美女が笑顔で挨拶しても、固まってしまって見返すだけだった。
 トワニは息子の方のテディの不安が爆発しそうなのを察して、仕方なく声をかけた。
「何か言えよ、テディ」
 シオドア・シニアは彼を振り返り、瞬きした。ああ・・・と呻いて、彼は若いカップルに向き直り、娘が差し出した手を握った。
「こんな田舎によく来てくれた。」
 そして、息子を見た。若いシオドアはまだ不安そうだった。父親は無理に笑顔を作って言った。
「いい娘さんだ。仲良くな」
 息子は笑って、彼女を父親の目の前で抱き寄せてキスをした。既に紹介を済ませていた母親が、二人を隣の部屋へ連れて行った後、父親はトワニを睨みつけた。
「あんたが介入してくるとは、思わなかったよ!」
「俺は何もしていなかっただろ? ここに立っていただけさ。」
「それで十分さ。あんたの前じゃ、誰も間違ったことを言えないから・・・」
「君は間違ったことを言うつもりだったのかい?」
「それは・・・」
「自分が間違っていたと知っていたんだ?」
「それは・・・」
「もう間違える必要はないだろ?」

 若いテディが二人に食事の用意ができたと告げに来ると、もうトワニはいなかった。父親が一人で窓を見ていた。
「父さん、食事だよ・・・トワニはもう帰ったの?」
「ああ・・・」
「僕、マギーと結婚するよ。いいだろ?」
 沈黙。
 テディは、やはり父親は反対するのかと危惧した。もし反対されたら、トワニから教えられたことをしなければならない。
 その時、父親が言った。
「テディ、俺は黒人なんだ。今まで黙っていたが、三代前のお婆さんは、黒人だったんだよ。」
 父親は息子がショックを受けるのではないかと思った。窓ガラスに映った彼等は、どこから見ても白人だったから。
 息子が何も言わないので、彼は勇気を奮って振り返った。テディJrは微笑んでいた。 そして、父親を抱き締めた。

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