ちょっとしたお茶会で知り合ったイギリス人から聞いた話。
ロンドン郊外で、ある人が畑をつぶして民宿を建てた。ところが、宿泊客たちは、よく眠れないと苦情を言った。部屋は新築で綺麗だし、エアコンも 付けた。料理だって、イギリスにしては美味しい方だと自負していたので、「眠れない」と言う苦情は、経営者にとって予想外だった。ベッドだって寝心地の良 いものを選んだし、布団だって清潔だ。客は何を不満に思うのだ。
経営者は友達に頼んで泊まってもらった。
翌朝、友達は寝不足の顔で彼の部屋に来た。
「夜中中、うるさくって眠れやしない。」
「何がだ? 周囲には音をたてるような施設はないし、君の部屋の隣は空いていた。第一、うちの民宿にはテレビは置いていないんだ。」
「そんな音じゃないんだ。足音やら話し声が聞こえるんだよ。」
「誰も夜中に歩き回る様な人はいない。」
「それじゃ、今夜、僕と同じ部屋で寝てみるがいい。」
そこで経営者は、初めて客が寝不足になる部屋で寝た。
真夜中。
ザック・・・ザック・・・ザック・・・
それは、たくさんの軍靴の行進に聞こえた。
馬のいななき声や、男たちの話し声。
経営者は、毛布を頭の上まですっぽりと被ったが、音は耳に入ってきた。
眠気が失せ、彼はそっと毛布から顔を出し、勇気を出して目を開いて見た。
兵隊が見えた。それもイギリス軍ではない、古代ローマ人の兵隊だ。何十人、何百人と彼が寝ているベッドの横を歩いていくのだ。彼は呆然として行軍を眺めた。こいつ等は、どこから来た? どこへ行くんだ? 何故、ここに・・・。
彼は奇妙なことに気がついた。兵隊たちは、床の面を膝で歩いていた。膝から下が床で見えなかったのだ。だから、彼らの頭がベッドの上で見ている彼のすぐ目の前にあった。何故なんだ?
翌朝、彼は街の考古学者を訪ねた。学者は彼の話に興味を持ち、民宿の床を掘り返しても良いか、と尋ねた。どうせ商売あがったりなので、経営者は許可した。
学者は弟子たちと共に、民宿の床を掘り返した。床から30cmから50cm下に、石畳があった。それは、畑から民宿の角部屋を横切り、表の通りへ伸びていることがわかった。
ローマの兵隊は、自分たちが敷設した街道を行軍していた。現在の地面ではなく、律儀に自前の道路を歩いていたので膝から上しか見えなかったのだ。
彼らの行く手、遙か南の彼方にはイタリアがあり、ローマがあった。
故郷を遠く離れた「野蛮人の国」ブリタニアで戦死した兵隊たちが、故郷ローマを目指して毎晩行軍していたのだった。
その人は、民宿を移動させ、行軍の邪魔をしないように取りはからった。跡地は土を取り払い、古代街道が見えるようにすると、急に「幽霊の行軍が見られる民宿」として知られるようになり、客が来るようになったのだそうだ。
ロンドン郊外で、ある人が畑をつぶして民宿を建てた。ところが、宿泊客たちは、よく眠れないと苦情を言った。部屋は新築で綺麗だし、エアコンも 付けた。料理だって、イギリスにしては美味しい方だと自負していたので、「眠れない」と言う苦情は、経営者にとって予想外だった。ベッドだって寝心地の良 いものを選んだし、布団だって清潔だ。客は何を不満に思うのだ。
経営者は友達に頼んで泊まってもらった。
翌朝、友達は寝不足の顔で彼の部屋に来た。
「夜中中、うるさくって眠れやしない。」
「何がだ? 周囲には音をたてるような施設はないし、君の部屋の隣は空いていた。第一、うちの民宿にはテレビは置いていないんだ。」
「そんな音じゃないんだ。足音やら話し声が聞こえるんだよ。」
「誰も夜中に歩き回る様な人はいない。」
「それじゃ、今夜、僕と同じ部屋で寝てみるがいい。」
そこで経営者は、初めて客が寝不足になる部屋で寝た。
真夜中。
ザック・・・ザック・・・ザック・・・
それは、たくさんの軍靴の行進に聞こえた。
馬のいななき声や、男たちの話し声。
経営者は、毛布を頭の上まですっぽりと被ったが、音は耳に入ってきた。
眠気が失せ、彼はそっと毛布から顔を出し、勇気を出して目を開いて見た。
兵隊が見えた。それもイギリス軍ではない、古代ローマ人の兵隊だ。何十人、何百人と彼が寝ているベッドの横を歩いていくのだ。彼は呆然として行軍を眺めた。こいつ等は、どこから来た? どこへ行くんだ? 何故、ここに・・・。
彼は奇妙なことに気がついた。兵隊たちは、床の面を膝で歩いていた。膝から下が床で見えなかったのだ。だから、彼らの頭がベッドの上で見ている彼のすぐ目の前にあった。何故なんだ?
翌朝、彼は街の考古学者を訪ねた。学者は彼の話に興味を持ち、民宿の床を掘り返しても良いか、と尋ねた。どうせ商売あがったりなので、経営者は許可した。
学者は弟子たちと共に、民宿の床を掘り返した。床から30cmから50cm下に、石畳があった。それは、畑から民宿の角部屋を横切り、表の通りへ伸びていることがわかった。
ローマの兵隊は、自分たちが敷設した街道を行軍していた。現在の地面ではなく、律儀に自前の道路を歩いていたので膝から上しか見えなかったのだ。
彼らの行く手、遙か南の彼方にはイタリアがあり、ローマがあった。
故郷を遠く離れた「野蛮人の国」ブリタニアで戦死した兵隊たちが、故郷ローマを目指して毎晩行軍していたのだった。
その人は、民宿を移動させ、行軍の邪魔をしないように取りはからった。跡地は土を取り払い、古代街道が見えるようにすると、急に「幽霊の行軍が見られる民宿」として知られるようになり、客が来るようになったのだそうだ。
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