2013年9月23日月曜日

赤竜 1 その19

 オーリーは古書専門店を経営するエイブラハム・フライシュマンを訪ねた。彼もソーントンに何度か古書の鑑定を依頼したことがあったと言う。エイブラハムは60を少し過ぎた痩せぎすの金髪の男だった。
「オーランドは売買される本より、博物館行きになりそうな古文書の類を得意としていたね。」
と彼はオーリーにお茶を出して言った。
「それは、死海文書みたいな物ですか。」
 オーリーは考古学には疎い。頭にある乏しい知識を総動員して、一番古そうな本らしきものの名前を出してみた。ユダヤ人の本屋が笑わずに頷いた。
「そう、羊皮紙の類だね、相当珍しい貴重な物を持っていたはずだよ。値打ちがわかる人間なら、殺してでも手に入れたい物もあったんじゃないかな。」
「”赤竜”って、ご存じですか。」
「うん、知ってるよ。この店にもある。見るかい。」
 エイブラハムはオーリーを古書の倉庫に案内した。
「古い本は温度と湿度を一定に保ってやらなきゃならん。ワインみたいに手間が掛かる代物でね。」
 ソーントンの書斎は普通の部屋だったな、と思いつつ、オーリーは倉庫に入った。古い紙の匂いが詰まった空間だった。ずらりと並んだ本は羊皮紙なのか紙な のか、彼にはわからなかった。この倉庫には「赤竜」が二冊あった。一冊はラテン語で、一冊はドイツ語だった。どっちもオーリーには読めない。それでもエイ ブラハムが手に取った本を用心深く開いて見せてくれると、そこには大鍋を煮込む魔女の絵が描かれていた。
「この本はいつ頃書かれた物なんですか。」
「さてね、グーテンブルグの活版印刷より前だったことは確かだね。これは活字だけどね。」
「もし、これの初版本が出てきたら、大騒ぎでしょうね。」
「魔法マニアや珍品マニアは興奮するだろうな。」
「ソーントン氏がそれを持っていたなんてことはありませんか。」

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