レインボウブロウは相手の質問をはぐらかす名人だ。オーリーは彼女がこちらからの質問に何一つまともに答
えていないことに気付いた。質問の内容が彼女自身の素性やオーランド・ソーントンの実体に触れると、直ぐに彼女の方から質問をしたり話題をすり替えた。彼
はひどい消化不良を起こした気分だったが、それでも遺言状立ち会いの許可はもらえた。相棒のライリーを同伴しても良いと言われたし、モーテルでイヴェイン
を拾って弁護士の事務所に送ることを依頼されもした。
「もしこれで犯人の見当がつけば昇給間違いなしだろうけどね。」
とライリーが運転しながら言った。殺人事件が短期間で解決するなど、滅多にないことだ。現行犯でなければ、まず無理だ。警察は仕事をいっぱい抱えている。一週間もすればこのソーントン殺人事件もお蔵入りになってしまう。
モーテルに約束の時刻に到着すると、イヴェイン・カッスラーがはにかみながら現れた。薄い水色のビジネススーツがよく似合っている。女中より何処かの会 社のオフィスで働いている様に見えた。ライリーが嬉しそうなので、オーリーもちょっと鼻が高かった。「弁護士さんと間違えそうだ。」
ライリーは誉め上手だ。イヴェインが照れ笑いした。
「初めてこんな服を着たの。レニーがいろいろ用意してくれていたのに、今まで着る機会がなかったから。」
オーリーはドアを見た。
「レニーは?」
「彼女は明け方に出かけたわ。事務所で落ち合いましょう、て。」
屋敷に戻って、また地下の秘密のプールで泳いでいるのだろうか。彼はレインボウブロウがスーツを着て現れるとは予想しなかった。
クーパー弁護士の事務所はビッテンマイヤー法律相談所と言うビルの中にあった。全て弁護士事務所だ。家主のビッテンマイヤーが会社形式で複数の弁護士を 抱えている。成績の良い弁護士は良い場所にオフィスをもらえる。クーパーも上階の見晴らしの良い部屋をもらっていた。口ひげの濃い大柄な男だ。目つきが鋭 かった。刑事に警戒しているのかも知れない。
挨拶の後で、オーリーたちはソーントンの素性について尋ねた。
「誰に聞いても満足な答えをもらえないもんで。」
「私も彼の全てを知っていた訳ではありませんよ。」
クーパーは秘書を介さずに自分でコーヒーを入れた。イヴェインの前にカップを置いた時だけ、彼は優しい微笑を彼女に見せた。
「今度のことは大変だったね。」
屋敷に顔を出したことがあったので、イヴェインは彼と顔なじみだった。
「まだお葬式の段取りもしていないの。」
彼女が心細く呟いた。
「私がちゃんと手はずを整えるよ。オーランドから頼まれていた。彼の年齢では何時何があってもおかしくなかったからね。でも、犯罪の犠牲者になることは彼にとっても私にとっても予想外だった。」
そして、弁護士は刑事たちを振り返った。
「オーランドの素性についてお尋ねでしたね。」
彼は客たちの前の肘掛け椅子に腰を下ろした。
「私どもの法律相談所では、顧客の素性を無闇に明かすことはしません。しかし、イヴェイン・カッスラーはオーランド・ソーントンの相続人に指定されていますから・・・」
「何ですって。」
イヴェインが腰を浮かせた。相続人の件は初耳だったらしい。オーリーが彼女の手を掴んだ。
「座って、イヴェイン。クーパー氏はこれからその説明をして下さるんだ。」
イヴェインがのろのろと座り直したので、クーパーが彼に感謝の意味を込めて頷いた。
「オーランドはイギリス人です。」と弁護士は語り始めた。
「つまり、彼がそう言ったのです。向こうではちょっとした旧家の息子で、商売をしていたが上手くいかなかったので、新天地を求めてアメリカに渡って来たと 言いました。第二次世界大戦が始まる前のことです。それから彼は各地を転々と移り住み、この街に流れ着いた。私の客になったのは、もうかれこれ10年以上 前のことです。」
「資産家の様に見受けられたのですが。」
「彼の職業に関しては知りません。私が知っていた限りでは、彼は骨董品や古書の売買を手がけていました。恐らく、イギリス時代からの資産がかなりあって、 それを元手に道楽を兼ねた商売をしていた様子です。彼の資産管理を任されていますが、その全容は遺言状の開封の際に明かしましょう。」
その時、秘書がレインボウブロウの来訪を告げた。
「もしこれで犯人の見当がつけば昇給間違いなしだろうけどね。」
とライリーが運転しながら言った。殺人事件が短期間で解決するなど、滅多にないことだ。現行犯でなければ、まず無理だ。警察は仕事をいっぱい抱えている。一週間もすればこのソーントン殺人事件もお蔵入りになってしまう。
モーテルに約束の時刻に到着すると、イヴェイン・カッスラーがはにかみながら現れた。薄い水色のビジネススーツがよく似合っている。女中より何処かの会 社のオフィスで働いている様に見えた。ライリーが嬉しそうなので、オーリーもちょっと鼻が高かった。「弁護士さんと間違えそうだ。」
ライリーは誉め上手だ。イヴェインが照れ笑いした。
「初めてこんな服を着たの。レニーがいろいろ用意してくれていたのに、今まで着る機会がなかったから。」
オーリーはドアを見た。
「レニーは?」
「彼女は明け方に出かけたわ。事務所で落ち合いましょう、て。」
屋敷に戻って、また地下の秘密のプールで泳いでいるのだろうか。彼はレインボウブロウがスーツを着て現れるとは予想しなかった。
クーパー弁護士の事務所はビッテンマイヤー法律相談所と言うビルの中にあった。全て弁護士事務所だ。家主のビッテンマイヤーが会社形式で複数の弁護士を 抱えている。成績の良い弁護士は良い場所にオフィスをもらえる。クーパーも上階の見晴らしの良い部屋をもらっていた。口ひげの濃い大柄な男だ。目つきが鋭 かった。刑事に警戒しているのかも知れない。
挨拶の後で、オーリーたちはソーントンの素性について尋ねた。
「誰に聞いても満足な答えをもらえないもんで。」
「私も彼の全てを知っていた訳ではありませんよ。」
クーパーは秘書を介さずに自分でコーヒーを入れた。イヴェインの前にカップを置いた時だけ、彼は優しい微笑を彼女に見せた。
「今度のことは大変だったね。」
屋敷に顔を出したことがあったので、イヴェインは彼と顔なじみだった。
「まだお葬式の段取りもしていないの。」
彼女が心細く呟いた。
「私がちゃんと手はずを整えるよ。オーランドから頼まれていた。彼の年齢では何時何があってもおかしくなかったからね。でも、犯罪の犠牲者になることは彼にとっても私にとっても予想外だった。」
そして、弁護士は刑事たちを振り返った。
「オーランドの素性についてお尋ねでしたね。」
彼は客たちの前の肘掛け椅子に腰を下ろした。
「私どもの法律相談所では、顧客の素性を無闇に明かすことはしません。しかし、イヴェイン・カッスラーはオーランド・ソーントンの相続人に指定されていますから・・・」
「何ですって。」
イヴェインが腰を浮かせた。相続人の件は初耳だったらしい。オーリーが彼女の手を掴んだ。
「座って、イヴェイン。クーパー氏はこれからその説明をして下さるんだ。」
イヴェインがのろのろと座り直したので、クーパーが彼に感謝の意味を込めて頷いた。
「オーランドはイギリス人です。」と弁護士は語り始めた。
「つまり、彼がそう言ったのです。向こうではちょっとした旧家の息子で、商売をしていたが上手くいかなかったので、新天地を求めてアメリカに渡って来たと 言いました。第二次世界大戦が始まる前のことです。それから彼は各地を転々と移り住み、この街に流れ着いた。私の客になったのは、もうかれこれ10年以上 前のことです。」
「資産家の様に見受けられたのですが。」
「彼の職業に関しては知りません。私が知っていた限りでは、彼は骨董品や古書の売買を手がけていました。恐らく、イギリス時代からの資産がかなりあって、 それを元手に道楽を兼ねた商売をしていた様子です。彼の資産管理を任されていますが、その全容は遺言状の開封の際に明かしましょう。」
その時、秘書がレインボウブロウの来訪を告げた。
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