2013年11月3日日曜日

赤竜 2 その6

「それじゃ、魚が入り込めば、見えない?」
 オーリーの質問にディックが声をたてて笑った。
「井戸に魚がいればね。」
 レインボウブロウは黙って空っぽの水槽を見下ろした。それからパイプを眺め、目で辿って井戸らしき場所を確認した。それらの彼女の目の動きはサングラス で隠されていたので、誰にもわからなかったが、オーリーだけは彼女が何かを見つけようとしているのだと知っていた。
「フィルターの穴を見せてもらえますか。」
 いきなり彼女が声をかけたので、男たちはびっくりした。ライリーは彼女の存在を忘れていたし、ディックは気づきもしなかったのだ。オーリーが慌てて紹介した。
「鑑識官のミズ・レニーです。」
 ライリーが何か言いかけて口を開いたが、レインボウブロウが澄まして会釈したので黙り込んだ。ディックは彼女が握手をしないのは、それまで無視されていたことが気に入らないのだろう、と思って、急いで刑事たちをポンプ操作室の脇の道具入れに案内した。
 フィルターは大きな丸い金属製の物で、細かい編み目に細かい泥やゴミが付着していた。直径1メートルはあるフィルターの三枚ともに、直径30センチメー トルほどの楕円形に近い穴が開いていた。レインボウブロウは網を観察した。ゴミで汚れている面を撫でて、ディックに尋ねた。
「こっちが井戸の方を向いている面?」
「そうです。」
 彼は穴の縁を指さした。
「井戸の方向からぶち抜いた様な感じでしょう。何かが突き破ったみたいだ。でも、何だろう。井戸に生き物なんかいないはずなのに。」
「井戸の中を見たことがあるの?」
 レインボウブロウは答える時は曖昧なくせに、質問は鋭い。ディックが肩を竦めた。
「それがないんだ。外からは遮断されている地下にあるし、入る為の階段も長いこと使われていない。入る時は、ガス検査をしなければ危険だしね。」
 オーリーは彼女が眼鏡越しに彼を見たことに気付いた。井戸の中に何かいてもおかしくない。彼女みたいな不思議な存在が。

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