包み紙を捨てられないで、到来物の紙は、出来るだけ破らないように広げ、皺を伸ばして丁寧にたたみ、棚にしまい込む。それがどんどん溜まって、棚がいっぱいになって、隣の棚にも進出して来た。
綺麗な花柄の紙や、上品なデパートの包装紙、楽しいケーキ屋さんのラッピングペーパー。それが、宝物だったのだ。
彼は、祖母がいなくなった家の中を見回した。金目の物はせいぜい仏壇の下にしまい込まれた高価な仏具程度で、そんなもの、古道具屋しか引き取ってくれないだろう。
「包み紙なんか溜めないで、お金を貯めてくれれば良かったのに。」
彼はため息をついた。
家を解体するなら、壁や柱ごと潰していまいましい紙を捨て去るのだが、まだ建物は綺麗だし、交通の便の良い場所にあるので、貸して欲しいと言う人がいて、解体費を使うよりは、家賃をもらう方がましなので、掃除をしなければならない。
祖母はこぎれいに住まいしていたので、家は綺麗だった。台所も寝室も片づいていたし、仏間もすっきりしていたし、浴室はちゃんと換気されていた。トイレも清潔だ。不動産業を営む友人の鑑定では、中古物件として良質で、月に7万円の家賃でも安い方だと言う。
家具や食器は既に運び出し、後は作りつけの棚にぎっしり押し込まれた包み紙の始末を残すのみとなっていた。
「どうすんの、これ?」
手伝いの友達が呆れていた。
「新聞紙や段ボールならリサイクルで引き取ってもらえるけど、包装紙だろ? 捨てるしかないんじゃない?」
「焼いちゃえば?」
「駄目だよ、ダイオキシンとかなんとかで、苦情がくるよ。」
「面倒だね。取りあえず、外に出そうよ。」
三人で紙を出して紐で縛る。それを10数回繰り返した。
「すごい執念だね、ここまで集めるなんて。」
「うん、我が祖母ちゃんながら、鬼気迫るものを感じるよ。」
包装紙の山が18個もできた。
塗装工をしている友人が、ガレージの隅に置かせてくれると言うので、預けた。
その夜、塗装工の友人から電話がかかってきた。大変なものを見つけたので大至急来い、と言う。昼間の労働でくたくただったが、彼は出かけた。
友人はガレージのシャッターを閉じてから、見つけたものを見せてくれた。
それは古い聖徳太子の一万円札の束だった。
「なに、これ?」
「おまえの祖母ちゃんの遺産だよ。」
「え?!」
友人の説明によると、彼の妹がちょっと物を包む物を探して、預かり物の包装紙の束をめくっていたら、一枚のお札が出てきた。もしやと思い、その束をほどくと、どの紙にも一枚ずつお札がはさんであった。
「これ、一束で50万あった。全部で18個だよな?」
彼は友人の言葉を震えながら聞いていた。
祖母の遺産は、紙だった。包装紙とその間のお札。
「なぁ、一割あげるから、全部ほどくの、手伝ってくれないか?」
「一割ももらっちゃ、悪いよ。いくらになると思うんだ? もし全部にお金が入っていたら、一千万近くになるぜ。」
「だけど、落とし物の謝礼くらいはしなきゃ・・・」
友人はほがらかに笑った。
「それは、取らぬ狸の皮算用。先にお金を探そう。それから決めようや。大した労働じゃなかったら、飯を一回おごってくれりゃいいさ。」
一晩かかって、967万円が出てきた。彼は友人に、50万円の謝礼を申し入れ、友人もそれを快く受けた。
「だけど、おまえ、俺がおまえに電話する前にいくらかポッポに入れたなんて、疑わなかったの?」
「入れたの?」
「まさか!」
「だろ? おまえを信用してるよ。」
彼は、一枚の紙を自分のポケットに入れた。
それは、10番目の束の中で見つけた、祖母の手書きの覚え書きだった。変色して黄色くなった紙に茶色になったインクの文字が、こう言っていた。
これを見つける人が私の相続人以外の人であり、その人が私の相続人に正直にお金を渡してくれたなら、私は子孫に信頼と言うものを相続させることが出来ると思うのです。
綺麗な花柄の紙や、上品なデパートの包装紙、楽しいケーキ屋さんのラッピングペーパー。それが、宝物だったのだ。
彼は、祖母がいなくなった家の中を見回した。金目の物はせいぜい仏壇の下にしまい込まれた高価な仏具程度で、そんなもの、古道具屋しか引き取ってくれないだろう。
「包み紙なんか溜めないで、お金を貯めてくれれば良かったのに。」
彼はため息をついた。
家を解体するなら、壁や柱ごと潰していまいましい紙を捨て去るのだが、まだ建物は綺麗だし、交通の便の良い場所にあるので、貸して欲しいと言う人がいて、解体費を使うよりは、家賃をもらう方がましなので、掃除をしなければならない。
祖母はこぎれいに住まいしていたので、家は綺麗だった。台所も寝室も片づいていたし、仏間もすっきりしていたし、浴室はちゃんと換気されていた。トイレも清潔だ。不動産業を営む友人の鑑定では、中古物件として良質で、月に7万円の家賃でも安い方だと言う。
家具や食器は既に運び出し、後は作りつけの棚にぎっしり押し込まれた包み紙の始末を残すのみとなっていた。
「どうすんの、これ?」
手伝いの友達が呆れていた。
「新聞紙や段ボールならリサイクルで引き取ってもらえるけど、包装紙だろ? 捨てるしかないんじゃない?」
「焼いちゃえば?」
「駄目だよ、ダイオキシンとかなんとかで、苦情がくるよ。」
「面倒だね。取りあえず、外に出そうよ。」
三人で紙を出して紐で縛る。それを10数回繰り返した。
「すごい執念だね、ここまで集めるなんて。」
「うん、我が祖母ちゃんながら、鬼気迫るものを感じるよ。」
包装紙の山が18個もできた。
塗装工をしている友人が、ガレージの隅に置かせてくれると言うので、預けた。
その夜、塗装工の友人から電話がかかってきた。大変なものを見つけたので大至急来い、と言う。昼間の労働でくたくただったが、彼は出かけた。
友人はガレージのシャッターを閉じてから、見つけたものを見せてくれた。
それは古い聖徳太子の一万円札の束だった。
「なに、これ?」
「おまえの祖母ちゃんの遺産だよ。」
「え?!」
友人の説明によると、彼の妹がちょっと物を包む物を探して、預かり物の包装紙の束をめくっていたら、一枚のお札が出てきた。もしやと思い、その束をほどくと、どの紙にも一枚ずつお札がはさんであった。
「これ、一束で50万あった。全部で18個だよな?」
彼は友人の言葉を震えながら聞いていた。
祖母の遺産は、紙だった。包装紙とその間のお札。
「なぁ、一割あげるから、全部ほどくの、手伝ってくれないか?」
「一割ももらっちゃ、悪いよ。いくらになると思うんだ? もし全部にお金が入っていたら、一千万近くになるぜ。」
「だけど、落とし物の謝礼くらいはしなきゃ・・・」
友人はほがらかに笑った。
「それは、取らぬ狸の皮算用。先にお金を探そう。それから決めようや。大した労働じゃなかったら、飯を一回おごってくれりゃいいさ。」
一晩かかって、967万円が出てきた。彼は友人に、50万円の謝礼を申し入れ、友人もそれを快く受けた。
「だけど、おまえ、俺がおまえに電話する前にいくらかポッポに入れたなんて、疑わなかったの?」
「入れたの?」
「まさか!」
「だろ? おまえを信用してるよ。」
彼は、一枚の紙を自分のポケットに入れた。
それは、10番目の束の中で見つけた、祖母の手書きの覚え書きだった。変色して黄色くなった紙に茶色になったインクの文字が、こう言っていた。
これを見つける人が私の相続人以外の人であり、その人が私の相続人に正直にお金を渡してくれたなら、私は子孫に信頼と言うものを相続させることが出来ると思うのです。
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