タローはいつもテーブルの上にパン屑やらおかずの欠片やらご飯粒を散らかすので、母親から叱られていた。
「もう、いい大人のすることじゃないでしょ! そんなだから、30にもなって嫁が来ないのよ!」
食事のマナーと嫁が来る来ないは関係ないだろう、とタローは思った。(あるかも知れないが)
食事の度にガミガミと口うるさく言われるので、いい加減嫌になる。
母親はタローが定職に就かないのも不満なのだった。
「フリーターなんて、職業じゃないでしょ! ちゃんと学校出してやったんだから、どこかの会社に籍を置きなさいよ!そんなだから、嫁さんが来ないのよ!!」
就職と嫁は関係ないだろう、とタローは思った。(あるかも知れないが)
それに学校を出たのは、タローの成績が卒業資格を取るのに十分だったからで、母親が試験を受けた訳じゃないだろう。(でも、塾の月謝や学費は誰が払ったんだ?)
つまらないので、食事を終えると、タローは外へ出かけた。
いつものパチンコ店で無駄に時間を潰し、一円も勝てずに外へ出ると、よく隣り合わせに座る老人が声をかけてきた。
「兄さん、願いが叶う石、要らんかね?」
タローは興味がなかったが、老人はただでやる、と粘った。
見ると、何の変哲もないただの泥岩の欠片だった。
「これの、どこが願いが叶う石なんだ?」
「ワシもよくわからん。友達からもらったんだ。一人一回限りで願いを叶えてくれる石だって。」
「小父さんは、もう叶えてもらったのか?」
「うん。今日、大当たり出した。」
タローは思わず声をたてて笑ってしまった。馬鹿馬鹿しいと思ったからだ。
「そんな石なら、他の人にあげれば喜ばれるじゃないか。」
「ワシはあんたにあげたいんだよ。あんたは今日、幸せそうに見えなかったから。」
「うるせいや!」
と言いつつ、タローは老人への「親切のつもり」で石を受け取った。
「願いは、どうやってかけるんだ?」
「ただ握って思うだけさ。」
老人と別れて近くの公園に行った。
ベンチに座ってタバコを吸いながら、ぼんやり将来のことを考える。
面倒くさいな、とタローは思った。花壇に上を舞う蝶々を見ながら、あんな風に蝶々になって暮らしたら気楽だろうな、と思う。虫に生まれたかったな。
タローの母親は、買い物を終えて、足早に公園を横切る。
今日は午後からスーパーのレジのパートだ。同僚の中で一番年上で、そろそろクビを言い渡されるかも知れない、と思いつつ、それでも生活の為に頑 張っている。全て、あのどら息子のせいだ。 まったく、あんな子を産むんじゃなかったよ、と彼女は毒づく。息子を置いてどこか遠くへ行ってしまいたいもん だ。今からでも遅くはないかも知れない。
そして首を振る。いや、馬鹿でも我が子だ。見捨てる訳にはいかない。
彼女は何かにつまずいて転倒した。
手をついて、どうにか地面にまともに倒れずに済んだが、買ったばかりの卵が落ちて割れた。
「もう! 全部あのどら息子のせいだわ! あんな子、消えてなくなればいいのよ!」
心にもない悪態だった。ただの憂さ晴らし。彼女は手をついた時に握ってしまった小石を捨てた。
タローはそれっきり戻らなかった。母親は一人でどら息子を待ち続けるだろう。
家の軒先の蜘蛛の巣から、命を吸い尽くされた蝶々がぶら下がっている。
「もう、いい大人のすることじゃないでしょ! そんなだから、30にもなって嫁が来ないのよ!」
食事のマナーと嫁が来る来ないは関係ないだろう、とタローは思った。(あるかも知れないが)
食事の度にガミガミと口うるさく言われるので、いい加減嫌になる。
母親はタローが定職に就かないのも不満なのだった。
「フリーターなんて、職業じゃないでしょ! ちゃんと学校出してやったんだから、どこかの会社に籍を置きなさいよ!そんなだから、嫁さんが来ないのよ!!」
就職と嫁は関係ないだろう、とタローは思った。(あるかも知れないが)
それに学校を出たのは、タローの成績が卒業資格を取るのに十分だったからで、母親が試験を受けた訳じゃないだろう。(でも、塾の月謝や学費は誰が払ったんだ?)
つまらないので、食事を終えると、タローは外へ出かけた。
いつものパチンコ店で無駄に時間を潰し、一円も勝てずに外へ出ると、よく隣り合わせに座る老人が声をかけてきた。
「兄さん、願いが叶う石、要らんかね?」
タローは興味がなかったが、老人はただでやる、と粘った。
見ると、何の変哲もないただの泥岩の欠片だった。
「これの、どこが願いが叶う石なんだ?」
「ワシもよくわからん。友達からもらったんだ。一人一回限りで願いを叶えてくれる石だって。」
「小父さんは、もう叶えてもらったのか?」
「うん。今日、大当たり出した。」
タローは思わず声をたてて笑ってしまった。馬鹿馬鹿しいと思ったからだ。
「そんな石なら、他の人にあげれば喜ばれるじゃないか。」
「ワシはあんたにあげたいんだよ。あんたは今日、幸せそうに見えなかったから。」
「うるせいや!」
と言いつつ、タローは老人への「親切のつもり」で石を受け取った。
「願いは、どうやってかけるんだ?」
「ただ握って思うだけさ。」
老人と別れて近くの公園に行った。
ベンチに座ってタバコを吸いながら、ぼんやり将来のことを考える。
面倒くさいな、とタローは思った。花壇に上を舞う蝶々を見ながら、あんな風に蝶々になって暮らしたら気楽だろうな、と思う。虫に生まれたかったな。
タローの母親は、買い物を終えて、足早に公園を横切る。
今日は午後からスーパーのレジのパートだ。同僚の中で一番年上で、そろそろクビを言い渡されるかも知れない、と思いつつ、それでも生活の為に頑 張っている。全て、あのどら息子のせいだ。 まったく、あんな子を産むんじゃなかったよ、と彼女は毒づく。息子を置いてどこか遠くへ行ってしまいたいもん だ。今からでも遅くはないかも知れない。
そして首を振る。いや、馬鹿でも我が子だ。見捨てる訳にはいかない。
彼女は何かにつまずいて転倒した。
手をついて、どうにか地面にまともに倒れずに済んだが、買ったばかりの卵が落ちて割れた。
「もう! 全部あのどら息子のせいだわ! あんな子、消えてなくなればいいのよ!」
心にもない悪態だった。ただの憂さ晴らし。彼女は手をついた時に握ってしまった小石を捨てた。
タローはそれっきり戻らなかった。母親は一人でどら息子を待ち続けるだろう。
家の軒先の蜘蛛の巣から、命を吸い尽くされた蝶々がぶら下がっている。
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