彼女の声は平坦だった。お嬢様に事件をどう説明するべきか、お嬢様が帰ってきて安心するべきか、彼女はまだ頭の中の整理が出来ていなかった。
オーリーは門を振り返り、小柄な女性が制服警官の制止を押し切って庭に入ってくるのを見た。
イヴェインがベンチから立ち上がったので、オーリーは彼女に確認の意味で尋ねた。
「彼女がお嬢様だね。」
イヴェインは頷いた。
「レインボウブロウ様です。」
小柄な娘が二人の方へ真っ直ぐ歩いて来た。黒髪をボーイッシュに短く切りそろえたヘアースタイルで、着ている物も活動的だ。黒いレザーのブルゾンの下に鱗状のデザインのシャツを着て、黒いレザーパンツをはいていた。靴は黒いスニーカーだ。
「ミズ・ソーントン?」
オーリーが尋ねたが、彼女は無視した。イヴェインを見て、短く質問した。
「なに?」
屋敷の内外の騒ぎを尋ねたのだ。イヴェインが涙声で答えた。
「旦那様がお亡くなりになりました。」
”お嬢様”は彼女を暫く見つめ、それからオーリーに初めて視線を向けた。
「誰。」
オーリーはバッジを出した。
「市警のオーランド・ワールウィンド刑事です。」
彼は娘の目を見た。こんな目をした人間を見たのは、初めてだ、と感じた。娘の目は奇妙に見えた。何が奇妙なのか、判明するのは、翌日のことだったが、オーリーはこの時既にこの若い女性に奇異なものを感じた。
「彼は何処。」
と彼女がイヴェインに尋ねた。イヴェインが躊躇いながら、屋敷の窓を指さした。パジャマを着た死体が横たわっていた書斎の窓だ。丁度その時、黒い死体袋を 持った警官たちが出て来た。イヴェインはその中身が誰かわかった。彼女の息を呑む音で、”お嬢様”も察した。彼女が不意に死体袋に向かって歩き出した。 オーリーは留めようかと思った。女性が見るには酷すぎる死体だ。否、女性でなくても、身内には見せたくない状態だった。しかし彼女は袋に向かって声をかけ た。
「オルランド」
オーランドのことだ。そして袋に手をかけた。運んでいた警官たちが驚いた。
「ちょっと・・・」
オーリーは腹を決めた。どうせ遺体の身元確認はしてもらわねばならない。死体を見て彼女が卒倒するのが庭先か、モルグかの違いだけだ。
「いい、見せてやれ。」
オーリーの言葉で、警官たちは足を止めた。娘は自分で袋のジッパーを開いた。イヴェインが後ろを向いた。目を硬く閉じて、1時間前に目撃したものを見た くない、と態度を明確にした。警官たちも視線を宙に泳がせた。オーリーは娘が何時卒倒してもいいように、彼女の背後に立った。
「頭が無い。」
”お嬢様”が呟いた。彼女は警官たちを見て、イヴェインを見て、オーリーと目を合わせた。驚きも恐怖もなく、事実だけを彼女は把握した。
「オルランドの頭は何処。」
オーリーは正直に、しかし、塀の外には聞こえないように気遣いながら、答えた。
「無かった。犯人が持ち去ったらしい。」
沈黙。オーリーはこの嫌な静寂の中で思った、何故この女は身内の首無し死体を目の前にして冷静でいられるのだ。
”お嬢様”が視線を死体に降ろした。そして、驚いたことには、彼女は身を屈めて死体に顔を近づけた。
「すまない。」
と彼女が死体に話しかけた。
「頭が無ければ、救えない。」
彼女はジッパーを上げ、警官たちに頷いた。もう袋には目もくれないで、彼女はイヴェインとオーリーのそばに戻って来た。そして、イヴェインに尋ねた。
「何を知っている?」
オーリーは門を振り返り、小柄な女性が制服警官の制止を押し切って庭に入ってくるのを見た。
イヴェインがベンチから立ち上がったので、オーリーは彼女に確認の意味で尋ねた。
「彼女がお嬢様だね。」
イヴェインは頷いた。
「レインボウブロウ様です。」
小柄な娘が二人の方へ真っ直ぐ歩いて来た。黒髪をボーイッシュに短く切りそろえたヘアースタイルで、着ている物も活動的だ。黒いレザーのブルゾンの下に鱗状のデザインのシャツを着て、黒いレザーパンツをはいていた。靴は黒いスニーカーだ。
「ミズ・ソーントン?」
オーリーが尋ねたが、彼女は無視した。イヴェインを見て、短く質問した。
「なに?」
屋敷の内外の騒ぎを尋ねたのだ。イヴェインが涙声で答えた。
「旦那様がお亡くなりになりました。」
”お嬢様”は彼女を暫く見つめ、それからオーリーに初めて視線を向けた。
「誰。」
オーリーはバッジを出した。
「市警のオーランド・ワールウィンド刑事です。」
彼は娘の目を見た。こんな目をした人間を見たのは、初めてだ、と感じた。娘の目は奇妙に見えた。何が奇妙なのか、判明するのは、翌日のことだったが、オーリーはこの時既にこの若い女性に奇異なものを感じた。
「彼は何処。」
と彼女がイヴェインに尋ねた。イヴェインが躊躇いながら、屋敷の窓を指さした。パジャマを着た死体が横たわっていた書斎の窓だ。丁度その時、黒い死体袋を 持った警官たちが出て来た。イヴェインはその中身が誰かわかった。彼女の息を呑む音で、”お嬢様”も察した。彼女が不意に死体袋に向かって歩き出した。 オーリーは留めようかと思った。女性が見るには酷すぎる死体だ。否、女性でなくても、身内には見せたくない状態だった。しかし彼女は袋に向かって声をかけ た。
「オルランド」
オーランドのことだ。そして袋に手をかけた。運んでいた警官たちが驚いた。
「ちょっと・・・」
オーリーは腹を決めた。どうせ遺体の身元確認はしてもらわねばならない。死体を見て彼女が卒倒するのが庭先か、モルグかの違いだけだ。
「いい、見せてやれ。」
オーリーの言葉で、警官たちは足を止めた。娘は自分で袋のジッパーを開いた。イヴェインが後ろを向いた。目を硬く閉じて、1時間前に目撃したものを見た くない、と態度を明確にした。警官たちも視線を宙に泳がせた。オーリーは娘が何時卒倒してもいいように、彼女の背後に立った。
「頭が無い。」
”お嬢様”が呟いた。彼女は警官たちを見て、イヴェインを見て、オーリーと目を合わせた。驚きも恐怖もなく、事実だけを彼女は把握した。
「オルランドの頭は何処。」
オーリーは正直に、しかし、塀の外には聞こえないように気遣いながら、答えた。
「無かった。犯人が持ち去ったらしい。」
沈黙。オーリーはこの嫌な静寂の中で思った、何故この女は身内の首無し死体を目の前にして冷静でいられるのだ。
”お嬢様”が視線を死体に降ろした。そして、驚いたことには、彼女は身を屈めて死体に顔を近づけた。
「すまない。」
と彼女が死体に話しかけた。
「頭が無ければ、救えない。」
彼女はジッパーを上げ、警官たちに頷いた。もう袋には目もくれないで、彼女はイヴェインとオーリーのそばに戻って来た。そして、イヴェインに尋ねた。
「何を知っている?」
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