フランク何某を知っているか?
下の名前はどうでも良い。名乗る度に変わっていたから。
フランクは場末のバーやダイナーでピアノを弾く流しのピアニストだった。店に収入の半分を納めて、店の客から心付けをもらって弾く。それで暮らしていた。
変わった男だった。モーツァルトを弾かせると、客は聞き入って食事を忘れてしまう。まるでモーツァルトその人が弾いているみたいだ、なんて言う ヤツもいた。しかも、フランクは自分が作曲した曲を混ぜてしまうのだが、誰も気づかない。モーツァルトの未発表の曲だと思ってしまうのだった。
ベートーベンを弾かせても同じ、バッハだって、シューベルトだって、ワーグナーだって、グレン・ミラーだってガーシュインだって、まるで作曲家その人が弾いてる、と思わせるほど人々の耳を惹きつけた。
そんな凄いヤツがどうして無名だったかって? それは、フランクが有名になりたくなかったからだ。一カ所に一週間も居着かなかった。固定客がつきかけると、慌てて荷物をまとめて町を出て行った。だから、俺は彼のピアノが聞きたくなったら、探し回らなければならなかった。
一度聞いてみたことがある。
「どうして逃げるんだ?」
「自由に弾きたいからさ。」
と彼は言った。
「モーツァルト風やガーシュイン風の曲をどんどん書けるのに、何故発表しないんだ?」
「俺が書いたんじゃないからさ。」
「では、誰が?」
「あんたが、さっき言ったじゃないか。」
彼はいつも謎めいていた。
そして、二年前のクリスマスの夜、彼は川岸のレストランで、シューベルトの交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」を”完成した”状態で弾いてのけたんだ!
それが、俺が彼のピアノを聞いた最後だった。
年明けに、彼は墓地の裏の路地で、玩具のピアノを抱いた状態で凍死していた。
彼の古ぼけたトランクには、手書きの楽譜がいっぱい詰められていた。
驚いたことに、それらは、全て、過去の大作曲家たちが残した現存する楽譜の筆跡と全く同じ筆跡による「新曲」だった・・・。
フランクは何者だったのだろう。
下の名前はどうでも良い。名乗る度に変わっていたから。
フランクは場末のバーやダイナーでピアノを弾く流しのピアニストだった。店に収入の半分を納めて、店の客から心付けをもらって弾く。それで暮らしていた。
変わった男だった。モーツァルトを弾かせると、客は聞き入って食事を忘れてしまう。まるでモーツァルトその人が弾いているみたいだ、なんて言う ヤツもいた。しかも、フランクは自分が作曲した曲を混ぜてしまうのだが、誰も気づかない。モーツァルトの未発表の曲だと思ってしまうのだった。
ベートーベンを弾かせても同じ、バッハだって、シューベルトだって、ワーグナーだって、グレン・ミラーだってガーシュインだって、まるで作曲家その人が弾いてる、と思わせるほど人々の耳を惹きつけた。
そんな凄いヤツがどうして無名だったかって? それは、フランクが有名になりたくなかったからだ。一カ所に一週間も居着かなかった。固定客がつきかけると、慌てて荷物をまとめて町を出て行った。だから、俺は彼のピアノが聞きたくなったら、探し回らなければならなかった。
一度聞いてみたことがある。
「どうして逃げるんだ?」
「自由に弾きたいからさ。」
と彼は言った。
「モーツァルト風やガーシュイン風の曲をどんどん書けるのに、何故発表しないんだ?」
「俺が書いたんじゃないからさ。」
「では、誰が?」
「あんたが、さっき言ったじゃないか。」
彼はいつも謎めいていた。
そして、二年前のクリスマスの夜、彼は川岸のレストランで、シューベルトの交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」を”完成した”状態で弾いてのけたんだ!
それが、俺が彼のピアノを聞いた最後だった。
年明けに、彼は墓地の裏の路地で、玩具のピアノを抱いた状態で凍死していた。
彼の古ぼけたトランクには、手書きの楽譜がいっぱい詰められていた。
驚いたことに、それらは、全て、過去の大作曲家たちが残した現存する楽譜の筆跡と全く同じ筆跡による「新曲」だった・・・。
フランクは何者だったのだろう。
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