2012年12月8日土曜日

帰り道

バス停から家までの道は、少し距離がある。街からそのバス停までは住宅街が続いているのに、バス停から我が家までの間は松林と畑と門から建物まで距離がある大きなお屋敷しかない。
 昼間でも人通りが少ない。バスの到着の前後だけに人は集中して通る。だから、この道でかつて下校途中の女の子が悪い人に襲われて気の毒な目に遭わされたことがあった。
 夕刻、バスから降りて薄暗い道を歩き出すと、後ろから足音が近づいてきた。視野の隅に小学生の男の子がいた。足を速めると、彼も速める、速度を落とすと、彼も落とす。つかず離れず付いてくる。

 ふと、数日前の新聞の見出しを思い出した。
「小学生がひったくり」
「つかまえて見れば、五年生」

 そんなはずはない、と否定してみても、不安は拭えない。嫌な世の中になったものだ。子供を警戒しなきゃならないなんて。
 
 子供の息づかいがすぐ後ろで聞こえる。こちらは、自然と早足になる。子供はぴったり付いてくる。
 丁字路にさしかかった。不意に子供が前に回り込んできた。ギョッとしていると、向こうから声をかけて来た。

「お姉さん、右へ行くの、左へ行くの。」
 ドキドキしながらも答えた。
「左だけど・・・」
 
 子供はふうんと言った。
「僕は右へ行かなきゃいけないの。じゃね、ばいばい!」
 そしていきなり駆けだして行った。

 ああ、私は馬鹿だった。怖かったのは、あの子も同じだったんだ。私が勝手にあの子を疑って警戒していた時に、あの子は私を唯一人の頼れる大人として必死で遅れまいと付いてきていたのだ。
 せめて、こう言ってあげればよかった。

「気を付けて帰るのよ。」と。

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを有り難うございます。spam防止の為に、確認後公開させて頂きますので、暫くお待ち下さい。
Thank you for your comment. We can read your comment after my checking.