K課長がお昼休みに、昔話をしてくれました。
「俺が小学校の頃に、近所に偏屈なおっさんがおってな。
ある日、俺等がキャッチボールをしていたら、ボールがそのおっさん家(ち)の庭に入り込んでしもうた。俺等は塀越しに『おっちゃん、ボール返してんか』って言うたんや。
そ うしたら、そのおっさん、俺等が礼儀を知らん、言うて怒りよってな、仕方がないから、俺が代表で玄関まで行って、頭下げて、『ボール取らし(せ)てくださ い』って謝ったんや。それやのに、その偏屈なおっさんは、『儂の庭に入ったボールは儂のもんや。おまえ等のもんと違う。さっさと帰れ!』って言いくさり よってな。埒があかんから、俺等も諦めたんや。」
課長はそこで、お水を一口飲んでから、
「ところが、それから数日たって、そのおっさんの家の前を通ったら、家のもんはみんな留守で、庭に面した障子が前部開け放ったままやった。夏やったし、今と違うて田舎では泥棒なんてなかったから、無防備やったんや。
それで、俺は庭に入って、散水栓のホースをおっさんの部屋に向けてな、水を撒いてやったんや。スカッとしたわ。後で親父にばれて、大目玉食ろうたけどな。」
課長はそこでちょっと食べてから、また続けました。
「高校卒業する前に、俺は地元の会社をいくつか面接受けたんや。ほんまは大阪行きたかったんやけど、親が地元を望んだからな。
三 つ目の会社の面接で、机の向こうに座っとったのが、例の偏屈なおっさんやった。おっさん、俺を覚えとってな、『あ、おまえ、いつかの悪ガキ!』って言うた わ。俺もその時には多少は大人やったから、『その節は大変ご迷惑をおかけしました』って謝った。すると、おっさん、大声で笑いよって、『まったく、あの時 は家の中を水浸しにされて、往生したわ。』やて。
それから、『おまえ、ほんまは田舎でくすぶる様なヤツ違うやろ。大阪とか、出たいのと違うか?』って聞きよった。
俺が『うん、大阪行きたいです』って言うたら、なんと、紹介状書いてくれてな、T紡績に就職出来たんや。何が縁になるか、人生わからんもんや。」
それで、私は
「要するに、その『おっさん』は、課長を厄介払いした訳ですね?」
課長はちょっとムッとして
「まぁ、そう言えるかも知れんな。ところで、君のステーキが一切れ、さっき君がナイフを入れた時に、俺の皿に飛んで来たが、これは俺のものだから、返さないぞ。」
「俺が小学校の頃に、近所に偏屈なおっさんがおってな。
ある日、俺等がキャッチボールをしていたら、ボールがそのおっさん家(ち)の庭に入り込んでしもうた。俺等は塀越しに『おっちゃん、ボール返してんか』って言うたんや。
そ うしたら、そのおっさん、俺等が礼儀を知らん、言うて怒りよってな、仕方がないから、俺が代表で玄関まで行って、頭下げて、『ボール取らし(せ)てくださ い』って謝ったんや。それやのに、その偏屈なおっさんは、『儂の庭に入ったボールは儂のもんや。おまえ等のもんと違う。さっさと帰れ!』って言いくさり よってな。埒があかんから、俺等も諦めたんや。」
課長はそこで、お水を一口飲んでから、
「ところが、それから数日たって、そのおっさんの家の前を通ったら、家のもんはみんな留守で、庭に面した障子が前部開け放ったままやった。夏やったし、今と違うて田舎では泥棒なんてなかったから、無防備やったんや。
それで、俺は庭に入って、散水栓のホースをおっさんの部屋に向けてな、水を撒いてやったんや。スカッとしたわ。後で親父にばれて、大目玉食ろうたけどな。」
課長はそこでちょっと食べてから、また続けました。
「高校卒業する前に、俺は地元の会社をいくつか面接受けたんや。ほんまは大阪行きたかったんやけど、親が地元を望んだからな。
三 つ目の会社の面接で、机の向こうに座っとったのが、例の偏屈なおっさんやった。おっさん、俺を覚えとってな、『あ、おまえ、いつかの悪ガキ!』って言うた わ。俺もその時には多少は大人やったから、『その節は大変ご迷惑をおかけしました』って謝った。すると、おっさん、大声で笑いよって、『まったく、あの時 は家の中を水浸しにされて、往生したわ。』やて。
それから、『おまえ、ほんまは田舎でくすぶる様なヤツ違うやろ。大阪とか、出たいのと違うか?』って聞きよった。
俺が『うん、大阪行きたいです』って言うたら、なんと、紹介状書いてくれてな、T紡績に就職出来たんや。何が縁になるか、人生わからんもんや。」
それで、私は
「要するに、その『おっさん』は、課長を厄介払いした訳ですね?」
課長はちょっとムッとして
「まぁ、そう言えるかも知れんな。ところで、君のステーキが一切れ、さっき君がナイフを入れた時に、俺の皿に飛んで来たが、これは俺のものだから、返さないぞ。」
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