水晶で占いをしている。 と言っても、水晶の中に何かが見える訳ではなくて、自分の頭の中にヴィジョンが浮かぶのだけど、それだけだと、誰も信用してく れないので、水晶玉をクッションの上に置いて、薄暗い部屋でお香なんぞ焚きながら、意味不明の呪文を唱えて、見えるふりをする。
一応、当たってるんだ。いや、よく当たるんだよ。だけどさ、はっきり全部言うと、みんな怖がるだろ?
おいらの占いはさ、本当にこれから起きることが見えちゃうから、絶対当たる。それが、良いことだったら、かまわない。だけど、不幸だったら、当たった時、何故か逆恨みされたりする。おいらのせいじゃないってのに。
だから、良くも悪くも、ちょっとぼかした言い方でお告げをするんだ。「3時間後にあなたは車に轢かれます」なんて、言えないじゃん。
「帰り道に、四つ角で車に気を付けなさいね」としか言わないのさ。
困った客は、何人もいたけど、一番変わってたのは、三日前に来た若い男でね・・・若く見えるんだけど・・・20歳くらいかな・・・だけど、老人の雰囲気がしたのよ。
その男が占ってくれって言うんだ。
「俺はいつまで生きなきゃいけないのか?」って。
変なこと訊くだろ?
普通は「いつまで生きられるのか?」て訊くもんだぜ。
それで、いつも通りの手はずで、ヴィジョンを呼び出してみようとしたら、何も見えない。
いや、見えたんだが、それが何を意味するのか、おいらには、全く見当が付かないんだ。
その男の未来? 未来なのかなぁ・・・。
青だか緑だかわからない、陸地なのか、海の上なのか、それもわからない広い広い平原みたいなものが見えた。波打っていたのは水だろうか、草だろうか?
そこに白い道が見えた。真っ直ぐじゃなくて、緩やかに蛇行して、そのまま地平線(水平線)の向こう、光の中に消えていくんだ。
答えられなかったけど、答えを求められてた。おいらは仕方なく、その男に言ったよ。 彼はがっくりきていたけどね。
え? 何を言ったかって?
おいらは、あの男にこう言ったのさ。
あんたの未来は永遠です。
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