ヒサコは鍵を開けてドアを開いた。プンと埃の匂いと湿気。 黴は生えていないだろうと思うが、真っ先に浴室とトイレなどの水回りを確認。
ヒロシの上着がだらしなくソファの背もたれにかけてある。
「ヒロミさんも、ハンガーに掛けるぐらいのこと、したらいいのに・・・」
しかし手を出さずに、掃除を始める。
持って来た化学雑巾で拭き掃除。家の電機や水は使わない。電気代や水道代に余計な加算を出せば、気づかれる。
二、三週間に一度、掃除に来る。嫁のヒロミが掃除しないから、こっそりしておくのだ。
ばれないように。見られないように。水筒とお弁当も持参。決して痕跡は残さない。
必ず晴れた日に来て、照明は使わない。
掃除が終わると窓を開放して二階の和室で少し昼寝をする。ヒサコのささやかな楽しみ。
そして夕方になる前、孫たちが学校から帰る時刻より先にドアに施錠して帰宅する。
家を出る前に仏壇の前に置かれていた封筒を取って、ポケットに入れる。これは忘れない。
そして、自分のポケットに家から持って来た封筒を代わりに置いておくのだ。これも忘れない。
「まだそんなこと、してるの?」
親友のアサコが呆れると言うより心配する口調で言った。
「いい加減になさいよ。けりをつけるのよ。いつまでも引きずってちゃ、進歩はないわよ。」
「いいの。私は楽しいから。」
ヒサコは五月蠅そうにあしらうだけだった。
「だけど、あれからもう2年よ。」
アサコは意味もなくカレンダーを見た。
「もうすぐ、3回忌なのよ・・・」
アサコが帰ると、ヒサコは茶碗を片付けて、机の前に座った。
ヒロシの家から持って来た封筒を開けて、手紙を出した。
お義母様
いつもお掃除ありがとうございます。毎日綺麗な家に帰るのが楽しみです。ユミもトオルも私の掃除よりおばあちゃまのお掃除の方が上手だと褒めています。
また一緒にお食事でもしてみたいですね。
お弁当でなく・・・
ヒサコは新しい便箋を出して、返事を書く。
ヒロミさん
もうすぐお彼岸です。
今年は私の家で法要をします。お線香の煙が上がったら、みんなで降りていらっしゃい。
あなたの好きな黄粉餅や、ユミの好きな桜餅、トオルの為の牡丹餅を作っておきます。
ヒロシのビールも開けておきますよ。
楽しみに待っていますよ。
ヒロシの上着がだらしなくソファの背もたれにかけてある。
「ヒロミさんも、ハンガーに掛けるぐらいのこと、したらいいのに・・・」
しかし手を出さずに、掃除を始める。
持って来た化学雑巾で拭き掃除。家の電機や水は使わない。電気代や水道代に余計な加算を出せば、気づかれる。
二、三週間に一度、掃除に来る。嫁のヒロミが掃除しないから、こっそりしておくのだ。
ばれないように。見られないように。水筒とお弁当も持参。決して痕跡は残さない。
必ず晴れた日に来て、照明は使わない。
掃除が終わると窓を開放して二階の和室で少し昼寝をする。ヒサコのささやかな楽しみ。
そして夕方になる前、孫たちが学校から帰る時刻より先にドアに施錠して帰宅する。
家を出る前に仏壇の前に置かれていた封筒を取って、ポケットに入れる。これは忘れない。
そして、自分のポケットに家から持って来た封筒を代わりに置いておくのだ。これも忘れない。
「まだそんなこと、してるの?」
親友のアサコが呆れると言うより心配する口調で言った。
「いい加減になさいよ。けりをつけるのよ。いつまでも引きずってちゃ、進歩はないわよ。」
「いいの。私は楽しいから。」
ヒサコは五月蠅そうにあしらうだけだった。
「だけど、あれからもう2年よ。」
アサコは意味もなくカレンダーを見た。
「もうすぐ、3回忌なのよ・・・」
アサコが帰ると、ヒサコは茶碗を片付けて、机の前に座った。
ヒロシの家から持って来た封筒を開けて、手紙を出した。
お義母様
いつもお掃除ありがとうございます。毎日綺麗な家に帰るのが楽しみです。ユミもトオルも私の掃除よりおばあちゃまのお掃除の方が上手だと褒めています。
また一緒にお食事でもしてみたいですね。
お弁当でなく・・・
ヒサコは新しい便箋を出して、返事を書く。
ヒロミさん
もうすぐお彼岸です。
今年は私の家で法要をします。お線香の煙が上がったら、みんなで降りていらっしゃい。
あなたの好きな黄粉餅や、ユミの好きな桜餅、トオルの為の牡丹餅を作っておきます。
ヒロシのビールも開けておきますよ。
楽しみに待っていますよ。
う~ん。てっきり掃除嫌いの嫁に代わって息子の家を整理整頓する母親の話かと思いきや、友人の台詞から、このお母さん、死んでまで掃除してんの? 根性やね~という展開になり、最後は息子一家が事故?で逝っていたというオチに。生者と死者が入れ替わったです。(;;)
返信削除切ない。多分、誰も居ない家を掃除するヒサコさんを、友人アサコさんは哀れんでいるんでしょう。手紙の遣り取りまでは知らない気がする。
どう言う状況かは多くを語らないで読者の想像に任せると言うストーリーにしています。
返信削除哀れむと言うより心配しています。