2012年1月17日火曜日

引っ越し蕎麦

小学校の時、実家が社宅から一戸建てのマイホームに引っ越しました。
貧乏だったのですが、会社も貧乏になって、社宅を売却するので出て欲しい、と言われ、両親が一大決心をした訳です。
今のような引っ越し屋さんは当時はなくて、荷物の運搬は近所に住んでいた私の友達のお父さんが職場のトラックで運んでくれました。(大工の棟梁でした。)

当時、住んでいた町には蕎麦屋がありませんでした。
うどん屋さんは数軒あって、蕎麦も扱っていましたが、実家の近くで出前してをしてくれる店は、中華料理店が一軒あるだけでした。

社宅には電話がなく、新しいマイホームに移ってから電話を引きました。
だから、引っ越し蕎麦は、電話で注文出来ませんでした。
母は父に中華料理店まで行ってその店で出前をしてもらうよう、言いつけました。(ほとんど命令です・爆笑)

母は、普通の中華蕎麦、つまり、叉焼、もやし、葱、鳴門が入ったラーメンを想定したのです。
ところが、店員が運んで来たのは、チャンポン麺でした。
笑顔でお代を払った後、母は恐い顔で父に言いました。

「どこの世界に引っ越し蕎麦にチャンポン頼むアホがおんねん?」

父は小さい声で口答えしました。

「そやかて、ワシ、チャンポン食いたかったんやもん・・・」

母は言い返しました。

「誰もあんたの好きなもん買え、言うてない!」

それでも、みんなでチャンポン麺を食べて、その場はそのまま終わりました。


後年、子供達が結婚して、それぞれの家族が実家に勢揃いした時、ちょっと高級な中華料理店に食事に行きました。
父は本当は隣の豚カツの名店に入りたかったのですが、神戸に里帰りしたら必ず中華料理を食べると決めていた妹一家に押し切られました。

みんなで前菜や肉料理や魚料理や、とコースみたいに注文して取り分けて食べたのですが、父一人だけ、ラーメンを注文して食べていました。

ええ、父は母には表だって反抗しなかったのですが、静かに抵抗する技術には長けていました。(笑 

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